松栄之介

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最近の記事

【読書記録】「見ること」

サラマーゴ 著 / 雨沢泰 訳 / 河出書房新社 概要首都で行われた選挙で、大量の白票が投じられる。政府はそれを緊急事態と捉え、首都を封鎖、警察をはじめとする公的機関を首都から撤退させる。 思ったことメモ※ここからネタバレを含みます ①「白の闇」との再会 実は「白の闇」の続編として書かれており、医者の妻ら懐かしい面々と再会することができた。医者の妻が率いたグループの人々が、今でも交流を持っていること、斜視の少年が母親と再会できたことなども描かれており、嬉しかった。

    • 【映画記録】ポライト・ソサエティ

      あらすじスタントウーマンに憧れる高校生が、姉がヤバい家庭に嫁ぐのを阻止するために大奮闘するアクション・コメディ。 感想(ネタバレあり)思ったことを書き散らします。 冒頭シーンのかっこよさ 冒頭シーン、レトロなポップスを背景に、ロンドンのゴミゴミした道を自転車で爆走する主人公の映像が流れる。こういう導入、流行っているのでしょうか?先日観た「密輸1970」でも使われていたような・・・。かっこいいし、視覚的に主人公自身やその生活圏の雰囲気が掴めるので私は好きです。後3回くらい

      • 【読書記録】「白の闇」

        ジョゼ・サラマーゴ 著/雨沢泰 訳/河出書房新社 概要突然失明する感染症が蔓延する社会を描いた小説。原書は1990年代に刊行されているが、コロナ禍で再度注目されたようです。 映画化もされているらしいのですが、私はちょっと見る勇気がないです。文章だから耐えられることってありますよね。 ※ここからネタバレを含みます。 思ったことメモ①医者の妻について 基本的にはこの人の視点で話が進みます。 感染した夫を隔離施設に運ぶ救急車への同乗を拒まれるも、自分も失明したと主張して乗

        • 【読書記録】「魔が差したパン」

          O・ヘンリー 著/小川高義 訳/新潮社 ※この記事はネタバレを含みます。 概要O・ヘンリーの短編集。 「最後の一葉」が有名過ぎて、かつ自己犠牲の物語という印象が強いので、O・ヘンリーと聞くとほぉん・・・という、ちょっと醒めた目で見ていたけれど、全体的に展開がお洒落で楽しかったです。 以下は短編毎の感想です。 「ブラックビルの雲隠れ」 強盗犯ブラック・ビルが逃亡先の田舎で、羊飼いとして農家に雇われ、雇い主とも親しくなるが、捜査の手が迫っていることを知り・・・ 羊飼いの正体

        【読書記録】「見ること」

          【読書記録】「陰翳礼讃」

          谷崎潤一郎/著 中央公論社  著者曰く、日本にはどこか翳の部分、暗い部分を愛でる文化がある。古色を帯びた家財道具に美を感じる(つまるところ手垢を愛でているのだ、風流はむさきものである)。能や歌舞伎の衣装は、本来闇の中に仄かに煌めくのが美しい。はたまたほどよい昏さのある厠が家じゅうで一番風流なところだと思う。などなど、様々な陰翳の美を挙げつつ、すべてを光の元にさらそうとする昨今の風潮を批判的に述べる。西洋式のピカピカした清潔一辺倒のトイレは落ち着かないらしいのだ。  谷崎潤一

          【読書記録】「陰翳礼讃」

          役に立たないお金の話

           新築祝いをしたとき、私は9歳だった。親戚の大人たちが父方からも母方からも大勢集まって、子どもの私は肩身が狭かった。そこで隙を見て自分の部屋に戻り本を読んでいると、母方の叔父が上がってきた。叔父は子どもの無意識下にも、彫の深い映画俳優みたいな印象を与える風貌であった。その叔父が、お父さんとお母さんには内緒だよ、と言いながら1万円札を渡してきた。それでどのくらいのものが買えるか検討はつかないものの、大金であることは私にも分かった。私は遠慮しようとしたが、叔父は聞かずに私のポケッ

          役に立たないお金の話

          【読書記録】一九八四年

          オーウェル/著 高橋和久/訳 早川書房 ※ネタばれを含みます。 【概要】 人々の思考までもを監視する「党」が支配する社会。ウィンストンは党員として歴史を改竄する業務に従事しながらも、社会の在り方に疑問を抱いている。そして、性に奔放なジュリアに出会ったことをきっかけに、党への密めた反抗を実行してくこととなる。 ■思考するということ  党は思考することを徹底的に排除する。「テレスクリーン」は、人々を監視すると同時に、24時間体制で娯楽を提供し、一般の党員はテレスクリーンのス

          【読書記録】一九八四年

          日記(2022年9月宮崎旅行)

          1日目  昨日予約メールを確認するまで、なんとなく10時くらい出発だという気がしていたが、6:45発の飛行機だった。予約したときの私はとてもやる気があったんだろう。寝不足ではあったけれど、だんだん明けていく街を見ながら乗る空港行のバスは楽しかったので結果オーライである。  宮崎空港から電車に揺られて青島へ。最初に目に入るのは、青島を取り囲む「鬼の洗濯板」と呼ばれる奇岩群である。確かに、洗濯板としか云いようのない形をしている。幅1メートルほどの岩が幾筋も、まっすぐ遠くまで続いて

          日記(2022年9月宮崎旅行)

          日記(2022年8月)

          2022/8/7(日)  近所の公園で映画を上映するというから行ってきた。 2022/8/11(木/海の日)  近所の公園を散歩中、少年が手持ちの水槽に向かって「ザリ君」と呼び掛けているので、そうかそいつはザリ君かと思っていたら、少年、名前は何にしようかなあと呟く。ザリ君は仮の名であったらしい。  同じ足で向かった銭湯で、替えのマスクを忘れたというおばあさんに私の予備をあげたら、そのおばあさん、20円払おうとする。断ろうとしたが相手の方が上手だった。私が遠慮していると、今度

          日記(2022年8月)

          【読書記録】古事記講義

          三浦佑之/著 文芸春秋 2003初版 第1回:神話はなぜ語られるか  神話とは、人が今ここに生きている理由を語るものですが、古事記では人間の起源が語られていないというのが通説だそうです。しかし筆者は、実は古事記も人の起源に言及していると主張します。  世界は最初、もやもやとした「クラゲナスタダヨヘル」状態でした。そこに最初に「成りませる」のがウマシアシカビヒコヂの神。「カビ」とは萌え出る芽のことを指し、また「成りませる」とは、誰かが作ったのではなく、自然にできたということを

          【読書記録】古事記講義