松栄之介

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【読書記録】陰翳礼讃

谷崎潤一郎/著 中央公論社  著者曰く、日本にはどこか翳の部分、暗い部分を愛でる文化がある。古色を帯びた家財道具に美を感じる(つまるところ手垢を愛でているのだ、風流はむさきものである)。能や歌舞伎の衣装は、本来闇の中に仄かに煌めくのが美しい。はたまたほどよい昏さのある厠が家じゅうで一番風流なところだと思う。などなど、様々な陰翳の美を挙げつつ、すべてを光の元にさらそうとする昨今の風潮を批判的に述べる。西洋式のピカピカした清潔一辺倒のトイレは落ち着かないらしいのだ。  谷崎潤一

    • 役に立たないお金の話

       新築祝いをしたとき、私は9歳だった。親戚の大人たちが父方からも母方からも大勢集まって、子どもの私は肩身が狭かった。そこで隙を見て自分の部屋に戻り本を読んでいると、母方の叔父が上がってきた。叔父は子どもの無意識下にも、彫の深い映画俳優みたいな印象を与える風貌であった。その叔父が、お父さんとお母さんには内緒だよ、と言いながら1万円札を渡してきた。それでどのくらいのものが買えるか検討はつかないものの、大金であることは私にも分かった。私は遠慮しようとしたが、叔父は聞かずに私のポケッ

      • 【読書記録】一九八四年

        オーウェル/著 高橋和久/訳 早川書房 ※ネタばれを含みます。 【概要】 人々の思考までもを監視する「党」が支配する社会。ウィンストンは党員として歴史を改竄する業務に従事しながらも、社会の在り方に疑問を抱いている。そして、性に奔放なジュリアに出会ったことをきっかけに、党への密めた反抗を実行してくこととなる。 ■思考するということ  党は思考することを徹底的に排除する。「テレスクリーン」は、人々を監視すると同時に、24時間体制で娯楽を提供し、一般の党員はテレスクリーンのス

        • 日記(2022年9月宮崎旅行)

          1日目  昨日予約メールを確認するまで、なんとなく10時くらい出発だという気がしていたが、6:45発の飛行機だった。予約したときの私はとてもやる気があったんだろう。寝不足ではあったけれど、だんだん明けていく街を見ながら乗る空港行のバスは楽しかったので結果オーライである。  宮崎空港から電車に揺られて青島へ。最初に目に入るのは、青島を取り囲む「鬼の洗濯板」と呼ばれる奇岩群である。確かに、洗濯板としか云いようのない形をしている。幅1メートルほどの岩が幾筋も、まっすぐ遠くまで続いて

        【読書記録】陰翳礼讃

          日記(2022年8月)

          2022/8/7(日)  近所の公園で映画を上映するというから行ってきた。 2022/8/11(木/海の日)  近所の公園を散歩中、少年が手持ちの水槽に向かって「ザリ君」と呼び掛けているので、そうかそいつはザリ君かと思っていたら、少年、名前は何にしようかなあと呟く。ザリ君は仮の名であったらしい。  同じ足で向かった銭湯で、替えのマスクを忘れたというおばあさんに私の予備をあげたら、そのおばあさん、20円払おうとする。断ろうとしたが相手の方が上手だった。私が遠慮していると、今度

          日記(2022年8月)

          【読書記録】古事記講義

          三浦佑之/著 文芸春秋 2003初版 第1回:神話はなぜ語られるか  神話とは、人が今ここに生きている理由を語るものですが、古事記では人間の起源が語られていないというのが通説だそうです。しかし筆者は、実は古事記も人の起源に言及していると主張します。  世界は最初、もやもやとした「クラゲナスタダヨヘル」状態でした。そこに最初に「成りませる」のがウマシアシカビヒコヂの神。「カビ」とは萌え出る芽のことを指し、また「成りませる」とは、誰かが作ったのではなく、自然にできたということを

          【読書記録】古事記講義