【読書記録】「白の闇」

ジョゼ・サラマーゴ 著/雨沢泰 訳/河出書房新社

概要

突然失明する感染症が蔓延する社会を描いた小説。原書は1990年代に刊行されているが、コロナ禍で再度注目されたようです。
映画化もされているらしいのですが、私はちょっと見る勇気がないです。文章だから耐えられることってありますよね。


※ここからネタバレを含みます。

思ったことメモ

①医者の妻について

基本的にはこの人の視点で話が進みます。

感染した夫を隔離施設に運ぶ救急車への同乗を拒まれるも、自分も失明したと主張して乗り込みます。これが衝動的ではなく、計画的な行動だったことは、彼女が夫の荷造りの際に自身の着替えも準備していたことから分かります。政府をどこか信用していない人なのかなと思いました。感染症発生前の社会については多くは語られていませんが、他の箇所の描写から、ある程度の自由が保障されていたように見受けられました。そんな中で公の対応を盲目的に信じず、自身で考えて行動できる人間なのかもしれません。
彼女はその後も、目が見えないことを隠しながら、隔離施設の人々をさりげなくまとめる存在となっていきますが、見えるからこそ凄惨な光景を独りで耐えることになりますし(見えない人々ももちろん辛いのですが)、夫をはじめとする失明した人々の生命が自分にかかっているという重責を負うことになるのです。

②殺されるということ

物騒なタイトルになってしまいましたが、殺したくないし殺されたくないなぁ、と改めて思いました。自分が加害を受けたら、復讐するとか、相手を見下すとか罵倒するとかしたい。それすらできないなんて滅茶苦茶嫌だなと。
死因に限らず死んでしまえば何もできないのは同じなのだけれど、やられっぱなしの途中で何もできなくなることで尊厳の復活の機会を失うのが嫌なのだと思います。

③隔離施設と外の対比

後半は舞台が隔離施設から外に移ります。とはいっても外も地獄で、すでに感染症が蔓延し、社会が完全に崩壊した状態です。しかし、医者の妻一行が外に出たあたりから徐々に希望が見えてくるのです。
隔離施設では外から監視され(出たら撃つと言われている)、政府からのわずかな食糧を待つ日々なのですが、外ではどこで食料を調達するか、どこで寝泊まりするかを考える必要に迫られ、人々の意思が復活するので、そのあたりにも作者の言いたいことがありそうです。

④懸念を覚えた点

隔離施設の下りでは、拳銃を持ち込んだ男とその仲間たちが、女性たちを呼びつけ強姦する場面があり、相当辛く、作者が許されざることとして描いているのが微かな救いではあるのですが、その後の辛さはおろか妊娠の恐れすら描かれていないことには不満というか、懸念を覚える。その場で終わる恐怖じゃないということと向き合って欲しかった。

 ⑤疑問

数年後もう一度読んで、答えを考えてみたい問いのメモ。
a.ラストの「わたしたちは目が見えないのよ」の意味
b.教会の彫像の目が布で覆われていた理由
c.途中で登場する作家の意味
d.「だれも素性を知らない女」の意味
e.希望が見えてきたときに突然ぶっこまれる地下室のシーンの意義