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物語のハコニワ

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記事一覧

【小説】月をのむ

月を飲み込んだ。だから来てよ。 久々にかかってきた通話は、そこで切れてしまった。彼女はい…

340

【小説】シェイク

 ベッドの上で体中の血の気が引いたと思ったら、一気に沸騰した。隣にいる上半身裸の男が、あ…

101

枯れない花を抱いて歩く

 緑の細い茎を水中に浸し、ハサミを持つ手に力を入れる。わずかな抵抗は一瞬で崩れ先端からニ…

270

【小説】愛のカツカレー

「ねえ、おぼえてる?」  なげかけた言葉は白い冷蔵庫のドアにさえぎられ、力なくフローリン…

82

【小説】花のように泡のように

 うっすら色のついた唇が、別のひとみたいだと思った。  カウンターに並んで座っていると、…

81

【掌握小説】おなじ月をみている

電車の座席に沈み込むと、仕事の疲れとともに力が抜けた。 ああもう、休日出勤なんてするもん…

127

さよならのバックパックがくれたひと夏のこと

ご自愛なんてほど遠い毎日でも、発泡酒とからあげクンはやさしい。 東京の終電に揺られるのが日常だったある日、コンビニ袋をぶら下げて帰宅すると部屋の前に男がうずくまっていた。 薄汚れパンパンになったバックパックに、穴のあいたジーンズ。雨で濡れた道路をまばらな車が通りすぎる以外、静けさが夜を包んでいる。 通路の白熱灯の点滅にあわせ頭の中でアラームが鳴る。それと同時に、男が顔を上げた。懐かしい声が響く。 「おかえり~」 声の主は、旧友のKだった。日焼けした肌は記憶の彼よりも

若葉のころの僕らは

風が運ぶ草をかき分ける足音。制服のシャツがつんと引っ張られる感触。声をきかなくても、まぶ…

104

フルーツサンドの反則

どうにも苦手というものがある。たとえばフルーツサンド。申し訳ないけれど、あれは大人になる…

163

【小説】きこえないはずの音が、僕の骨を軋ませる

「2万Hz以上の音って、きこえないんだって」 彼女の白い背中があるはずの位置に手を伸ばすと…

92

こわれた眼鏡と君の嘘

あの年の4月は、桜の開花が遅かった。オレンジの中央線の窓の外を流れる釣り堀に、儚いピンク…

95

あたしの、ひとりきりの部屋から

あたしは二度と戻りたいとは思わない。 あの、はじめて暮らした、夜の星も見えない、ひとりき…

143

詩をよむと恋を謳いたくなるように【12月のオリオン】

その言葉は降ってきた。たしかに天から。名前のない関係の、ふたりの間に。だから、愛と呼んで…

62

【小説】 終わりの電車の向こうがわ

オレンジ色の静かな光が、中身が半分になった梅酒のグラスについた水滴に反射する。 わざと腕時計の時刻に気づかないように、彼のブルーのネクタイと浮き上がった喉仏に視線をあわせた。 ふたりきりの個室の外、数十分前までは人の気配が絶えなかった居酒屋が、だんだんと静かになっていく。夜が更け、終電が近い。あたしは、まだ知らないフリをしている。 「だからさ、もっとやらなきゃって思うんだよね」 ビール4杯飲んで変わらない顔色の彼は、先程から熱っぽく、立ち上がったばかりのプロジェクトに