詩をよむと恋を謳いたくなるように【12月のオリオン】
その言葉は降ってきた。たしかに天から。名前のない関係の、ふたりの間に。だから、愛と呼んでもよかった。
12月のオリオン
人が流れる改札前で、立ち止まっていたふたり。空から吊り下がる星のイルミネーションがまぶしくて誰も気づいてなんかいやしない。
ぼくらを。3時間の秘密を。できるなら秋と冬の隙間に埋めてしまおう。
唇に隠れた唯一無二の2文字を、繰り返しなぞる。一瞬だけ力を込めたあの距離に、君は満たされていましたか。
冬のオリオンが掠め取ったのは、進んでほしくなかった時計の針。
置き場のない切なさが、澄んだ夜の内側から僕をじっと見ていた。
木漏れ日も光の粒も
手に入れるなら愛だけでよかったのです。
やさしく笑いかける微笑みも
この頬に触れるぬくもりも
すべてはあたしの夢でした。
言葉だけで満たされていました。
夜にこぼれ落ちた金平糖のように
夕暮れに光った紙飛行機のように
朝焼けに忘れられた白い三日月のように
そこに、あるだけで。
じゅうぶんでした、あたしには。
これ以上、欲張りにさせないで
アイスクリームと紫のジャカランダ
午前7時の照りつける夏の日差し
肌を焼く 思い出す君の熱
紫のジャカランダの花が散る夏を歩こう
言葉はいつだって泡のように消えて
足りないのは 時間と体温
あふれている気持ちがせめてアイスクリームにでもなればいい。溶けかけたラムレーズンみたいに、君の恋ごと僕がたべるよ。
まどろみの恋人たち
既読がついてから息を止めて10秒
赤いベルがなったら目覚めた合図
夜と朝を行き来する電子信号
まだまだ物思いから 抜け出せないの
ジャンケンで3回勝ったらって、終電前の交差点でした約束を覚えてる?
鳥籠みたいにあたしを捕らえた季節が、全速力で駆けていく。あと、ちょっと。もう少しの距離で。
更新する最上級の冬
なにが起きるか知ってるよ。今夜。
この扉のなかで、君がまっている。
こっそりと、ふたりの記憶を上書きしよう。
雪さえも溶かす熱が、静寂のなかに響いた。
***
最果タヒの詩集『恋人たちはせーので光る』を読んだ。
読んだ、といっても読了していない。机のうえに置いて、おもむろに手に取る。ページをめくって、目に入った言葉から読む。それを繰り返している。
詩、というものは大変不思議な文章に思える。言葉の配列のようでただの整列ではない。非現実的なうつくしさと日常の素朴さ。遠い未来と戻れない過去。永遠と刹那。相対するものが同居して、ふいに胸を突き刺しに来る。
人は刺されてしまったとき、感情が動くのかもしれない。
何かを伝えようとしている、何かを見つめようとしている、そうやって思いをはせることはできても、目の前のその人が、本当に言おうとしたことを完全に理解することなんてできない。―『恋人たちはせーので光る』あとがきより
言葉は不完全で。伝えられるのに伝わらない。
だから恋人たちは、寄り添って顔を合わせるのかな。
うつくしい詩集を眺めながらそんなことを考えていたら、言葉が空から降ってきたので、クリスマスのこの日にインターネットの海にそっと置いておきます。
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