■ そういえばこんな事があった。 今思い出すと恥ずかしくて笑えてしまう。 閻魔帳みたいなモノを作った事がある根暗な読者はいるだろうか?ほら、いつどこで誰に何をされたみたいなアレである。 怨みノートみたいな奴だ。 私はある。 小学校低学年の頃だっただろうか、餓鬼の頃の私は人間だかケモノだかよくわからない代物で、恐らくは大分知能も劣っていたと思う。 ただ、そんな餓鬼でも悪口を言われたりしたら傷つく程度の情緒は残っていたようで、まあメモ切れだかなにかに、いついつにナン
◆ 僕は幼い頃から "星の巡りが悪い人" だった。 とにかくツイてないのだ。 特に虚弱でもなく遺伝的な疾患があるわけでもないのに、大病を何度も患っては家族を蒼褪めさせてきたらしい。 そんな僕だが、ある日を境に少しはマシになった。 マシというのは、直接的に大怪我をして死にかけたり、大病を患って死にかけたりはしなくなったという意味だ。 今ではちょっと運が悪いかな、という程度。 でも昔は酷かった。 いつ死んでもおかしくない……そういうレベルで不運だ
前書き本作は「常識的に考えろ、と王太子は言った」という短編と世界観を共有しています。 本編 ◆ 王太子エミールという青年がいる。 率直に言って気質は俗、能は凡庸、一国を支えていくだけの器は無い。 エミールの凡庸さは100年以上前のホラズム国王、アルドリックを彷彿とさせるものがあった。 アルドリックは "凡人王" と呼ばれ、なんら優れた能力を持たずに王族として生まれてしまった不幸な王として知られるが、幸いにも賢く忍耐強い王妃が政を支えたという。 だが、アル
①サイラス ■ “迷宮”という場所がある。 致命の罠、獰猛な魔物、空気は湿っていて重苦しく、苦悩する魂の叫びが闇に木霊する不吉な場所だ。 これは簡単に言えば“墓”である。 遥か昔、広大な版図を誇っていた古代王国が存在し、王国の権力者たちは死後の眠りの後に復活があると信じ、自身の肉体を保存しようとした。 だが力のある者の肉体というのは様々な用途で利用できてしまう。 例えば魔術の触媒に、例えば霊薬の材料に。 だから権力者たちは自身の肉体を護る為に迷宮を
■ 別に不幸自慢という訳ではないが、私はこれまで他者と比較して相対的にろくでもない人生を送ってきたと思う。 だがそれは、突発的な不幸が原因というよりは不幸になるべくしてなったというべきだろう。 何せ父親からして盆暗である。 元暴力団員という経歴を持つ父の右手は指が数本欠けており、これは要するに、彼がそれだけ能力にも欠けている事の証左でもあった。 暴力団員が指を落とすというのは、それはすなわち不始末の証であるというのは周知の事実である。 だが、能こそなかったが情が無
◆ 黄昏が翼を広げ、ホラズム王国を包み込む。 この日、ホラズム王立学園の広いホールには常に見られない賑わいがあった。 ホラズム王立学園は貴族の子弟と平民の子らが共に学び成長する学び舎で、この日は卒業パーティーの日だ。 ちなみに王立学園では身分差を超えた教育が施され、すべての生徒が平等に扱われるとされているが、それは建て前に過ぎない。 両者は生態が違いすぎるからだ。 貴族と平民、この両者は究極的には相互理解し得ない。 しかし国としてはそれでは困る
◆ くるくると回る様に二機がお互いの背後を取ろうとする。君は戦闘機のパイロットである。吹けば飛ぶ様な小国の空軍士官だ。腕は良い。井の中の蛙かもしれないが。 そんな君は、自身と同じ様な吹けば飛ぶ様な小国のパイロットが駆る戦闘機と命懸けの追いかけっこをしている。相手の腕も良い。もしかしたら、君よりも。 敵機の背後を取れば生き、取れなければ死ぬ……ドッグファイトとはその様なものだ。そう、死んでしまう。 ──こんな寒々しい、冬の空で 冷たい碧空に押しつぶされ
◆ 世の中には "良く分からないけどそうなっている" というモノが沢山ある。 例えば、ブラジルナッツ効果というものがある。 これはブラジルナッツというミックスナッツの缶を振ると、最も重くて大きいブラジルナッツが上に集まってくる。この現象は重力に反しており、いまだに物理学では解明されていない事象の一つだ。 まあブラジルナッツの例は無害だから良いものの、中には非常に危険な事例も存在しており、国内外で犠牲者も出ている。 そんな昨今、政府は国内にこの "良く分か
──2023年4月8日 ◆ 朝だ。 僕は佳絵を起こさない様にそっと起き上がった。 だが朝といっても朝じゃない。 午前三時や午前四時といった時間帯を、僕は朝とは認めたくない。 ちなみに今は午前四時である。 元々忙しい職場だったが、ここ最近はとにかく酷い。 これで金払いが悪いとあれば退職を考えるのだが、給料は良いため踏ん切りがつかない。 では社内では人権を認められないというようなブラックか、と言われればそれも違う。 仕事を強要されるわけで