しょうもな黒歴史②(短編/エッセイ)

そういえばこんな事があった。

今思い出すと恥ずかしくて笑えてしまう。

閻魔帳みたいなモノを作った事がある根暗な読者はいるだろうか?ほら、いつどこで誰に何をされたみたいなアレである。

怨みノートみたいな奴だ。

私はある。

小学校低学年の頃だっただろうか、餓鬼の頃の私は人間だかケモノだかよくわからない代物で、恐らくは大分知能も劣っていたと思う。

ただ、そんな餓鬼でも悪口を言われたりしたら傷つく程度の情緒は残っていたようで、まあメモ切れだかなにかに、いついつにナントカという奴からこんな事を言われた、みたいな事を書いて持っていた時期があった。

といってもそれを以て何か報復してやろうというような害意は無かったと思う。

自分でもいうのもなんだが、私は案外人を物理的に傷つける事を厭うタチに出来ているようで、殴り合いの喧嘩などは一度しかやったことがない。

それも小学生時代の話で、無惨な敗北を喫した事も覚えている。

それは兎も角、その閻魔帳だが当然人に見せられるような代物ではない。

その辺は当時の私も理解していた様で、ひた隠しにしていた覚えがある。

だがそんな閻魔帳が白日の下に晒されてしまったのだ。

しかも、そんな無惨な真似をしてくれたのはよりにもよって警察であった。

当時私は何番目の母親か忘れたが、マイという名の水商売あがりの女を母としていた。

これは前作「しょうもな黒歴史」に登場した凛奈という女より以前の母である。

マイは若く、頭がおかしかったのか知らないが父に惚れこんでいた。

良く分からないが父はもてたのだ。

チビだしパワハラ気質だし指がないしまともな仕事もしていない元ヤクザであるのに、女を切らした試しがなかった。

そしてマイはマイなりに、私の母親になろうと努力していたように思える。今思えば全く安定していない生活の中で、血も繋がっていない餓鬼の母親になろうなんてしんどいにも程があっただろうに。

当時の私はしょうもない糞餓鬼だったためかなり苦労をかけてしまったと思う。ただ、人間関係に致命的な亀裂が走るような真似はしていなかった……はずだ。もう昔の事なので思い出せない部分が多々あるのだが。

ともあれ、父とマイ、そして私は三人で家族の真似事というか、そんな事をしていた。

それなりに平和だったんじゃないだろうか?

だがそんな平和も当然の様にして破られた。

ある日突然警察が数人訪れ、父に手錠をかけたのだ。

よくわからないがどこかで脅迫だか恐喝でもしたんじゃないだろうか。

そしてマイは警察に事情聴取……されるのだが、ここで問題が発生した。

私という餓鬼の存在だ。

いくらなんでも子供の前で、という思いが警察にもあったのだろう。

外に出ているように促され、マイも私にそうしなさいと言った気がする。

それで私は外へと出ようとしたのだが、件の閻魔帳をポケットにいれっぱなしだったのだ。

警察は子供の私にも身体検査をしてきて、私のこっぱずかしい閻魔帳が見られてしまう事態となった。

これは何か、と問われる私は答えようがなかった。

とにかくもう恥ずかしかったという感情だけが強く残っている。

ここからが奇妙な所なのだが、それ以降の記憶が酷くあやふやでよく覚えていない。

父が警察につれられて去って行ったあと、私は当然マイと二人だけで生活する事になったはずだが、当時学校はどうしていたのか、生活費はどうだったのか、なぁーんにも覚えていない。

マイは私の母親リストの中でも結構上位の良い母親だったと思う。だから記憶にも残っていて当然なのだが……

まあともかく、閻魔帳を警察に見られたというのは今思い出してもこっぱずかしく、笑えてしまう出来事だった。


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