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映画『ホワイト•ゴッド 少女と犬の狂想曲』

2014年のハンガリー・ドイツ・スウェーデンのドラマ映画。

ハンガリーのブタペストを舞台に、少女と犬の心温まるストーリーかと思って観たが、全く違う展開で驚きを隠せない。

犬による犬の為の犬のクーデターを描いている。

 少女リリの母親はパートナーと長期旅行へ出る為、少女は雑種の犬ハーゲンを連れて父親の元で過ごす事になった。雑種犬に課税される新法が施行され、ハーゲンも対象になる。
 税金の取り立てもあり、犬を煩わしく思った父親はリリとの口論の末、ハーゲンを捨ててしまう。

 冒頭は少女リリの目線でストーリーが進んでゆくが、雑種犬のハーゲンが捨てられてしまった後は犬の目線を主にストーリーが進んでゆく。
 そこには差別や虐待、飢えが待ち構えている過酷な環境だった。
 映画は犬としてストーリーが進んでゆくけれども、観ている間に犬を人間を置き換えているような感覚になってきた。人種差別や貧困層の問題にも似ているように思えてきた。

 犬達の台詞のない心理描写は人間以上のものがあり、どんどんとストーリーに引き込まれていく。

 冒頭で少女リリと一緒にいるハーゲン(犬)は大人しく従順で素直な飼い犬らしい表情をした良い犬だったのに、人間からの虐待で恐怖に震え、怒りを抱えどんどん凶暴化した別の犬に変わってしまう。
 犬も人間も同じ心を持っている。
 少し話は逸れるが、映画『異端の鳥』の主人公の少年が戦時下での辛い体験を繰り返す事によって、別人に変わってしまった流れを思い出した。

 この映画は犬の心理描写が優れているが、犬を人間に置き換えて考えてみるととても分かりやすい。
 ヨーロッパ映画的な静かな表現とやや象徴的な演出も多いがとても良い作品だと思う。

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