[ルポ⑤] 日雇い派遣スタッフ、反社・半グレ会社を破滅させる
人材派遣業は次の3つの契約形態を採用していることが多い。
①人材派遣:クライアント企業と派遣会社が労働者派遣契約を結び、派遣会社が雇用しているスタッフを派遣する。
②業務請負: クライアント企業(発注主)と派遣会社(請負元)が「請負契約」を結び、当社が直接雇用したスタッフ(労務提供者)が、派遣会社の管理監督と責任の下で業務遂行・完成させる
③人材紹介:雇用契約はクライアント企業と結ぶことになる。
日雇い派遣会社は「日々紹介」という名目で行っている。
(なお、クライアントの負担が増えるため、人材紹介はしない派遣会社も多い)
「日々紹介」の場合、クライアントに「雇用責任者としての管理能力」があればいいのだが、管理・責任能力が皆無どころか、紹介された会社が「反社会的勢力」(暴力団などが経営する企業、フロント企業など)や、組織的ではないが「半グレ」が経営するチンピラな会社であった場合はどうなるか?
結論から言うと「派遣スタッフは、違法や犯罪が渦巻く"無法地帯"に投げ込まれる」のである。
今回は、反社だか、半グレだかわからないけど、違法なことをしている会社を破滅させたエピソードだ。
【給料不払い逃げしようとした工務店】
派遣会社から日々紹介された「イベント事業の事前研修」の仕事があった。
依頼主は工務店で「事前研修 日当6000円」という名目で募集したスタッフを、イベント会社Aに毎日10名前後、1ヶ月ほど送り込んでいた。
研修の内容詳細は書いておらず「イベント」「誰でもできるお仕事です」とアピールしていたため、ティッシュ配り的なものかと思いエントリーしてみた。
(実際はイメージと大きく異なっていたのだが、キャンペーン主の企業が特定される業種のため、ここでは詳しく書けない)
研修終了後、振り込み予定日を過ぎても給料が振り込まれないため、不審に思い、工務店について調べてみた。
工務店のホームページには「人夫出しします」と書かれていたが、派遣業資格を持たない工務店であることがわかった。
まともな会社は「人夫出し」なんかはしない。
元祖ピンハネ。ヤクザ稼業だ。
※派遣会社が社会問題とされるのは、他人を働かせて利ざやを稼ぐピンハネを合法化したところにあると言われている
そもそも、研修当日から不審な点が多かった。
派遣スタッフが到着すると、工務店の従業員は1人もおらず、募集の記事には名前のなかったイベント会社Aの社員が登場し「リストに名前書いて、これが大事なんだよ、これが。ひひひ」と笑いながら、出席簿リストに一人一人直筆で名前を書かせた。
・・・何なんだろう?ひひひって。
悪役気分なの???
こいつらが、めちゃくちゃ妙な動きをしていたため、気になった私は、何かあった際にと、証拠となりそうなものをチェックしておいた。
イヤな予感は的中し、怪しい工務店は、何度も何度も問い合わせをしたのに一向に給料を払わなかった。
1ヶ月半経っても、給料は支払われなかった。
【派遣会社との実際のメールのやり取り】
このようなやり取りを、本来の給料振り込み予定日から、ずーーーっと派遣会社としていた。
だが私は、なんとしても給料を回収する人間だ。
イベント会社Aと工務店はグルで、キャンペーンを展開する外資系大企業のクライアントを騙くらかして、求人・研修に係る経費を水増し請求していたようだ。
「これだけ求人で人を集めました」という証拠としての、名簿の直筆サインだ。仕事をさせる気がなくても、とりあえず人集めさえしたら儲かる仕組みだったのだろう。
研修資料によると「キャンペーンは20代の男女によるプロモーション活動」という設定だったが、研修に参加していた人の中には50、60代の男女までいた。むしろ、20-30代は2割程度しかいなかった。(リストに書かれた名前を見れば、達筆で「かずこ」とか「秀雄」とか書かれていたら、クライアントも20代とは思わないのでは?
ツッコミどころ満載の、あまりにもザルな仕事である)
①派遣会社の募集画面のキャプチャ
②サインをしたリストのこと
③参加者の年齢層など
④研修当日の流れ
⑤給料不払いの件
⑥違法な「人夫出しをしている」と、わざわざ記載している工務店のホームページ
等の証拠をおさえた上で、キャンペーンを委託しているクライアントの「お問い合わせ窓口」から、メールをした。
【取引先と、厚労省(労働局)に通報する】
キャンペーン主のクライアントサイトの問い合わせフォームから投稿した、実際の文面の一部。
問い合わせメール送付の3日後、キャンペーン担当部署の最高責任者(?) の部長の名で、調査をする旨の返信をいただいた。
通報から4、5日後。
派遣会社から慌てた様子で「労働局に通報したのですか?」と電話がかかってきた。
私は「した」とだけ答えた。
厚労省の窓口には、キャンペーン主の大企業についての通報でなく、派遣元と派遣先のことを通報したのである。
まあ、労働局なんか動かないと思っていたが、この派遣会社の給料不払い事件はあまりに多すぎるため、今回の件と別件を、全部まとめて労働局の公益通報に通報しておいた。
労働局なんて普通は動かないものなんだけど、もしかすると禁止されている「人夫出し・人工出し」のことで確認の電話をしたのかもしれない。
※完全な請負契約が成立しておらず、時給×人数として計算されている場合は請負ではないため偽装請負の違法派遣、無許可労働者供給などになる。
まあ、どんな違法をしていても、外国人不法就労以外の件で労働局が動くなんてことは稀なのだ。
そのくらい何もしない。
証拠を揃えて通報しても動かない労働局と、派遣会社の違法については、まだまだネタがあるので、いずれ紹介しようと思っている。
そういうわけで、通報してから1週間でケリがつくケースなんて労働局に通報したくらいではありえないので、キャンペーン主の外資系企業が動いたのだろう。
派遣会社から電話があった翌日、私の銀行口座に工務店から、迅速に給料が振り込まれた。
振り込み、出来るじゃん。
【リスクマネジメント】
キャンペーン主の外資系大企業に調査依頼をしたことは、派遣会社には伝えなかったが、労働局より先に動いたのは、そちらだろう。
なにせ外資系の超大手だ。
自社のキャンペーンに怪しげな反社か半グレの会社が絡んでいて、被害者が多数出ているという情報が証拠付きで提示されたら、迅速なスピードで対応する。
外資系企業で何度か働いた私は、日本企業と外資系企業の『対応の差』を知っていた。
外資系企業はリスクに対して非常にシビアなため、とにかく対応が早い。何か不祥事があれば、管理職がスパッと処分される風土なのだ。
しかし、こてこての日本企業の場合、同様のケースでも「動かない」場合があるし、ちゃんと「動く」こともある。
その差は、リスクマネジメント意識があるか、皆無か、管理職が責任を取るか取らないかという、会社の風土の違いのようだ。
【その後の顛末】
私はその後、イベント会社Aと工務店がどうなったのか、経過を観察した。
・まずイベント会社Aと工務店の連携は完全に消滅したようで、派遣会社のサイトで求人情報が出てくることはなくなった。
・イベント会社Aは、キャンペーン主の大企業から契約解除されたのか、本件にまつわる求人広告は全てネットから消滅した。
それどころか当時、東京に進出したばかりの営業所は、1年もしないうちに丸ごと消えた。
全国の都市に営業所を構えているのに、何故か今日まで東京だけは消えたまま再建していない。
・怪しげな工務店のサイトは、私に給料を支払った3ヶ月後、サイトに掲載していた社員の写真が全て消えた。
工務店のサイト自体は今も存在しているが、ほとんどの情報が消されており、ブログも消滅したまま放置されている。「人夫出しします」のワードも、しっかりと消されていた。
【"いい加減な派遣会社"は、反社・半グレの金儲けの道具】
このように、日雇い派遣を行っている某大手派遣会社は、紹介先をロクに調べず、もちろん反社チェックなどもしないで、仕事の依頼が入れば半グレだろうがフロント企業だろうが、構わずに派遣スタッフを紹介してしまう。
なので、私が日雇い派遣をやめる頃には、給料不払いが横行していた。
⭐︎日雇い派遣会社に紹介されたチンピラな現場エピソードは、こちらもどうぞ。
悪い奴らが「日雇いはバカしかいないから、給料払わないのは楽勝」と仲間と話しているのを、聞いた事がある。
仲間内でそういう話が広がるので、悪い奴らが皆やりだすのだが、派遣会社は責任を取らないため、派遣スタッフが犠牲になる。
しかし、当たり前のように給料不払いが起きていたのに、大きな社会問題にならなかったのは、多くの派遣スタッフが
①自身の給料に興味がなくて(こういう人は、とても多い)気にもとめなかったり
② 普段から通帳記帳も、チェックもしていなかったり
③不払いに気がついても「面倒だから泣き寝入り」していたから
だろう。
悪い奴らが「日雇いはバカしかいないから、給料払わないのは楽勝」と思うのも、当然かもしれない。
『「ルフィ」指示の京都強盗、闇バイト10人は報酬得られず…末端メンバー相手にされず』:讀賣新聞 2023/07/19 07:00 記事より
悪い奴らの考えることは、日雇い派遣利用でも、闇バイトでも同じなのだ。
反社・半グレが求人依頼する日雇い派遣会社は、事務所がまともに機能していないところを選んでいる。
私は一時期、最大22社の人材派遣会社に登録していたが、まともな人材派遣会社は、そういう輩に選ばれなかった。
「違法な仕事」は、それを支える土台があるからこそ可能になるのだ。
※こういう事件に関するメールのやり取り、キャプチャなどの資料は、全てGoogleドライブに保管してある。
不運な人を助けるための活動をしています。フィールドワークで現地を訪ね、取材して記事にします。クオリティの高い記事を提供出来るように心がけています。