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詩集「この上なく美しきもの」

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2008年編纂
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#私の作品紹介

詩/何も言うまい

詩/何も言うまい

もう、何も言うまい。
そう決めて閉じた口の中に
塊がうまれ
僕はそれをのみこんだ。
塊は熱をおびながらのどを圧迫し
やがて、胃の底へ沈んでいく。
その重たさは、
僕が生きる一つの証
でもあった。

詩集「この上なく美しきもの』(2008年)より
初公開作品
©︎2024九竜なな也

肉じゃがの世界

肉じゃがの世界

玄関のドアを開くと
そこは、肉じゃがの世界だった。
リビング、階段、寝室にいたるまで
この家は肉じゃがに満たされている。
興奮した黄色い雄叫びが
そこらを駆けまわる。
キッチンで彼女が奏でる音楽は
心地よいリズムだ。
さあ、子供たちよ。これから、
それを胸いっぱいにいただくのだ。
君たちは知っているか
この味が、体にしみわたることを。

詩集「この上なく美しきもの」(2008)
初公開作品
©︎2

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詩/少年の夏

詩/少年の夏

空を見上げて
コーラを一気に
飲み干した、夏。
無数の泡が
細い喉の内ではじけた。
胸にささった
「さようなら」の文字も、そのとき
はじけて消えたように思えた

詩集「この上なく美しきもの」(2008年)より
初公開作品
©️2024九竜なな也

詩/雨音

詩/雨音

悲しいのは…
こつこつ、窓をたたく雨か
ちっちっ、ただ鳴っている壁の秒針か
音を立てない、あなたの吐息か
悲しいのは…

詩集「この上なく美しきもの」(2008年)より
初公開作品
©️2024九竜なな也

詩/Yo  ka  ze

詩/Yo ka ze

ふと、一人になりたくて
砂色の部屋から
小さなベランダにでた。
星になりきれなかった
窓や街灯を十ほど数えて
目をつむると…
待っていたかのように
風が頬をつつむ。
永遠からの使いのように
ずっと、ここで待っていたよ…
と、言わんばかりに

詩集「この上なく美しきもの」(2008年)より
初公開作品
©️2024九竜なな也

詩/重たい雲

詩/重たい雲

ぼてっと落ちてきそうな
重たい雲が
私を癒すのです。
透き通る青い空から
私を隠してくれて
しばらくここにおって
泣いたらええよ
と、言うのです。

詩集「この上なく美しきもの」(2008年)より
初公開作品
©️2024九竜なな也