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じゃりン子チエとバカボンパパと殺人鬼が大阪の路地で激突する日本映画の傑作『さがす』のこと


映画『さがす』が公開されました。すでにnoteの公式アカウントにもコメントを掲載していただいているのですが、改めて紹介したいと思います。

ポン・ジュノ監督のもとで助監督をつとめるなど多くの作品を支え、貧困と搾取を描いた衝撃的な作品『岬の兄妹』で知られる片山慎三監督の作品。
すでに多くの人に絶賛されているけど、『岬の兄妹』の地を這うような視線を引き継ぎながら、サスペンス、エンターテインメントとして幅広い人が見ることができるという、広さと深さを両立した作品になっている。
伊東蒼と佐藤二朗の親子は、まるでじゃりン子チエとバカボンのパパが同居しているようなユーモアがあり、この二人の日常だけで映画が成立してしまいそうなほど魅力があるんだけど、そこにまったくカラーのちがう「東京の人々」が物語に流れ込んでくる。清水尋也演じる「死」の商人、森田望智演じる自殺志望者など、東京組の演技も素晴らしいのだけど、ハッキリと東と西で物語のテーマが分かれているんですね。東京と大阪という二つの文化、進化していくネット社会と変わらない大阪の路地(西成だろうか?)、そして生と死の思想が二組の俳優たちに重ねられていて、その中間で佐藤二朗が揺れ動くことになる。

そういうテーマ性をもちながらエンターテイメントとしても(いくつかの性的シーンはともかく)テレビ放送にも耐えるほと間口の広い作品になっている。伊東蒼演じる女子中学生原田楓が大阪の狭い路地で連続殺人犯と出会いチェイスする様は、じゃりン子チエと名探偵コナンをミックスしたように見応えがある。森田望智演じるムクドリという女性も、いかにもネットアディクトの喋り方であるように見せて、ふっと別の顔を見せる、そういう人間の描き方がとても繊細。

それからパンフレットもすごく内容が濃密で、インタビューの他にもタイトルロゴや宣伝ビジュアルを担当した韓国のデザイン会社のスタッフのインタビューが掲載されている。日本映画のパンフレットでこういうスタッフのインタビューが載るのは珍しいと思うんですが、そのいろいろな案がどれもいいんですね。

 

公式アカウントへのコメントでも書きましたが、この映画はヒットしてほしい。こういう映画がヒットして、監督やスタッフに次の映画を撮る力とお金が入ると日本映画はどんどん変わっていくと思う。『岬の兄妹』のイメージがあると身構える人もいるかもしれないけど、今作はテーマを深めながら明らかに娯楽作品として大衆を巻き込む作りになっていると思う。俳優たちの演技も本当にすばらしくて、こういう映画の演技で賞が取れるようになってほしい。

というわけで、是非見てほしいというおすすめのあとに、月額マガジン有料部分で映画のネタバレと気になった所を書きたいと思います。ネタバレがどんどん厳しくなっていくので、こういう形式なら思いっきり言及してもいいのではないかと。もし気に入っていただけたら読んでみてください。

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