【Review】2020年J1第8節 川崎フロンターレVS.ガンバ大阪「川崎対策に慣れていけるか」

はじめに

 2020年J1第8節の川崎フロンターレは、1-0でガンバ大阪に勝ちました。これでクラブ新記録の7連勝を達成し、首位をキープしています。
 5試合連続3得点以上だった最近の試合展開とはガラッと変わり、1点を争う戦いになりました。ガンバ大阪の対策に苦しめられた部分も、川崎自ら首を締めた部分もあった中で、なんとかワンチャンスをモノにして勝ち切った試合でした。

3センターへの2つの対策

 この日の川崎、特に前半は「何か停滞しているな」と感じた人は多かったのではないでしょうか。その要因の一つに、3センターがこれまで通りのプレーができなかったことが挙げられるでしょう。
 その理由は大きく二つ、一つが大島・田中・脇坂が低い位置に釘付けさせられたことです。そのためボール奪取後の攻撃に上手く繋げられず、シンプルなクリアで相手ボールにしてしまうシーンが多かったです。ちなみにこの試合のクリア数は28本で、これまでの平均は19.3本です。
 なぜ位置が低かったかというと、川崎の2CBに対してG大阪が2トップをぶつけてきたからです。いくらジェジエウと谷口が優れたDFだからと言って、ゴール付近で数的同数で守るのは危険です。そのため中盤の3人は数的有利を作ろうと低くポジショニングせざるを得ません。こうして3センターは守備時に下がることを余儀なくされ、守備から攻撃への展開に時間がかかってしまいます。

 これまで通りのプレーができなかったもう一つの理由が、脇坂・大島へのパスコースが遮断されていたことがあります。川崎の攻撃の起点となる彼らへのパスが通せなかったことで、前半はリズムを掴めませんでした。
 G大阪が5人で最終ラインにプレッシャーをかけることで、中央のパスコースを遮断しながらプレスをかけてきました。特に2CBに2トップをぶつけているため、谷口・ジェジエウから中盤にパスを送ることができません。
 一方で大島と脇坂はもどかしかったはずです。前線からプレスをかける大阪は前線と最終ラインの間にポッカリとスペースが空いており、二人はそこでフリーになれていました。ただ大阪が5人で来るためパスコースがいつもより狭く、出し手がそこを通す判断をすることが少なかったです。芝が若干荒れてたのも遠因でしょう。
 また、パスが通らないだけでなく、二人は相手が見えないところで動いているだけなので、大阪の選手を意図的に動かすことができません。相手に狙い通りのポジショニングで守備をさせてしまったのが、前半苦戦した理由でしょう。相手を動かすパスやポジショニングをもっと増やす必要があったと思います。

停滞した左と根本原因への治療

 もう一つ気になったのが左からの攻撃が停滞していたことです。前から来る相手でも、谷口・登里の左サイドであればこれまでは上手くかわしていました。ただこの試合はそこも封殺されていたので、この辺りはスカウティングされていそうです。
 とはいえ大阪の守備が良かったのもありますが、旗手がまだ動き方を理解していないようにも見えました。特に登里に入った時のボールを受ける回数が少なかったように思います。サイドでプレッシャーが弱いとはいえ、単にタッチライン際で立っていればボールを受けられるわけではなく、味方がボールを出せるタイミングでマークを外している必要があります。
 今年の長谷川はドリブルのキレもありますが、この外す動きが良く、スムーズに登里や大島からボールを引き出せているため好調をキープしているのだと思います。後半左からボールを運べるようになったのは三笘はこの動きが出来ているからでしょう。
 前半の左サイドに関してもうちょっと付け加えると、高尾を牽制する対処が面白かったです。左サイドのプレッシャーがきついことを感じて、大島や小林は給水明けから高尾と三浦の間あたりにポジショニングすることが増えました。これは高尾を牽制することで、旗手へのプレスを弱めようとする動きに見えました。実際26分の登里から旗手へのスルーパスの際は、小林が高尾と三浦の間に立っていました。左が苦しんでいる状況を根本の原因から潰そうとしていて、中の選手はそこまで考えているんだと脱帽しました。

ガンバに得点させなかった川崎のリスク管理

 こうして前半の川崎は全体を通して上手くいっていませんでしたが、なんとか無失点に抑えられました。前半をしのいだことがこの試合の勝因だったと思いますが、その理由の一つが致命的な奪われ方が少なかったことです。
 山根の大胆なパスミスはありましたが、それ以外はチャンスに直結するミスはなかったと思います。なぜなら先述の通り、3センターが低い位置で守備をしていて、数的不利になることは少なかったからです。
 大阪としては川崎のビルドアップを高い位置で奪取して速攻、というのが一つの狙いだったはずです。そのために井手口に高い守備位置を取らせていたので。この日の川崎はそこで奪われないリスク管理は出来ていました。

宮本監督「前線でボールを奪うシーンを増やす部分で、陽介(井手口陽介選手)が前に出ていくシーンを増やしたい。」
(引用元:川崎フロンターレ公式「ゲーム記録:2020 明治安田生命J1リーグ 第8節 vs.ガンバ大阪」https://www.frontale.co.jp/goto_game/2020/j_league1/08.html

 あとは大阪は攻撃時に中央に固執していたように感じました。ハーフタイムのDAZN解説では、大阪のアタッキングサイドが均等&真ん中が最も高いデータを見て「バランスがいい」と評価していましたが、結果的に中央でつまるシーンが多かったことを考えると、もっとサイドを使いたかったのが本音でしょう。小野瀬で右サイドを打開するシーンなどを増やしたかったんじゃないでしょうか。
 大阪の中央からの攻撃は川崎としては比較的対処しやすかったと思います。田中の脇が空くというのは確かに弱点ですが、さすがに分かりやすいので、狙われた時の対処はシンプルで、脇坂と大島が下がってスペースを埋めていました。大阪としてはそこからのアイディア足りず攻めきれません。終盤の遠藤投入の理由もその打開のためかなと思います。

宮本監督「2列目から康介を落とした中で、ヤット(遠藤保仁選手)が前に出ることで、よりスムーズにボールが出ることをイメージして、あそこで起用した。もう少し、ペナルティエリアに入り切る。そこでのひと工夫が欲しいので、そこでのヤットの起用になりました。」
(引用元:同上

やっぱりサイドにドリブラー

 後半ちょっと盛り返した要因の一つが三笘のボールを引き出す動きです。左サイドに入った三笘のフリーになるタイミングが良く、登里からのパスがワンタッチなのかツータッチなのかを見て相手と駆け引きをしていました。登里は直前まで受け手の状況を見れるので、三笘とは相性が良さそうでした。
 加えて、分かり切ってますがドリブルがすごい。警戒されていたからか抜き去るシーンは少なかったですが、ボールを持った時に相手の足を止められる選手は、味方に時間を与えてくれるのでありがたい存在です。サイドにドリブラーや家長のようにボールを持って相手の足を止め、味方に時間を与えられる選手が今の川崎に必要だと改めて感じました

 それと家長をセンターに配置した鬼木さんの采配も良かったと思います。大阪のプレス的に相手を外してもらうことが難しかったので、キープ力のある家長にはっきりと下がってボールを受けさせます。こうすることで相手を引きつけて陣形を乱すことに成功します。後半田中が前に上がれるようになった一つの要因はここにあります。こういった修正を一人の交代でやっちゃうのは、鬼木さんすごいですね。

 とはいえ実は後半の方がボール支配率は低いです。終盤受けに回ったのが理由の一つでしょう。あとは大阪がワントップにして、宇佐美などビルドアップにかける人数を増やしたため、大阪がボールを握れるようになりました。そう考えると、前半後半ともに辛抱した試合でした。

おわりに

 最近苦手だったアウェイG大阪戦を勝利し、首位をキープ。まだ8節が終わったばかりですが、2位のC大阪と勝ち点差5を付けています。
 とはいえ今後も連勝が伸びるかは怪しい気がします。なぜなら長谷川・齋藤の不在による影響をひしひしと感じたからです。後半三笘が躍動していたのを見ると、左サイドを牽引していた二人のドリブラーの不在は大きく、彼らがいてこそ発揮される戦術なのだと痛感しました。
 また3センター対策に対してすぐに対処できなかったのも不安材料です。ただ打開しようとする試みは見えたので、対策に早く慣れていけるかの勝負になるかと思います。また今季は交代枠が多いので、采配でどうにかすることも可能です。とはいえ大島のゲームコントロールに期待してしまいますね。

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