書評「読みたい文章が世の中になかった時に読む本」(田中泰延『読みたいことを、書けばいい。』2019,ダイヤモンド社)
はじめに
自分ちの玄関に積もった雪は、自分でかかなきゃいけない。
東京なら積もらずに溶けるが、雪国じゃ溶けてなんかくれない。
積もりすぎたら身動きが取れなくなる。
そしていつも思うのだ、「ああ誰か雪かきしてくれてもいいのに」と。
こんな気持ちで文章を書いてる人は多いのではないか。かくいう私はそうだ。文章を書くのが嫌いなわけではないけれど、誰かの文章を読んでこの「モヤモヤ」が解消されるならそれでも構わない。けど誰も書いてくれないから、自分で書くしかない。
そんな人に雪かき、いや物書きの心構えと方法を教えてくれる一冊。
自分が読みたいことを誰も書いていない時にどうするか
わたしが言いたいことを書いている人がいない。じゃあ、自分が書くしかない。
(引用元:第2章,2項,6段落)
この一文が伝わってれば『読みたいことを、書けばいい。』は読んだことにしてもいいと思う。この心構えは私の物書きを支えてくれている。川崎フロンターレのマッチレビューを書き始めたのも、人のレビューを読んでも自分が言いたいこと、読みたいことが書かれていなかったからだった。
もちろん文章を書いてご飯を食べている人はそんな自分勝手なことは言えない。読まれなきゃいけないプレッシャーの中で書いてることは尊敬に値する。けれども、一人の読み手として文章を書く人の出発点はここだ。この気持ちを忘れなければ、楽しく物が書ける。
大事なのは書きたいことを書くのではなく、読みたいことを書くこと。書きたいこと(=伝えたいこと)は読みたいと思ってもらえるかわからない。けれども自分が読みたいと思ったものは、数人くらいは同じように読みたいと思ってくれるはず。自分の感性が唯一無二なんて人はそういないのだから。
感想の吐露にならないように書く
ライターの考えなど全体の1%以下でよいし、その1%以下を伝えるためにあとの99%以上が要る。「物書きは調べることが9割9分5厘6毛」なのである。
(引用元:第3章,2項,9段落)
正直さっきのでこの本の魅力は伝え切ったと思っているが、あえてもう一つ付け加えるなら、この一文。文章のジャンルによるので一概には言えないが、文章を書く上で重要なことは入念な事前調査で、単なる感情の吐露になってはいけないと、筆者は主張している。
たとえば日常会話でも、何かを伝えるときに見た光景を伝えることは必要だろう。その上にその人なりの感情が乗っかることで、話は盛り上がる。人の感情の裏には、それを呼び起こした「事象」があるはずで、そこを詳細に描くことを疎かにしてはいけない。
本書の中では実際に情報を集めるために一次資料の当たり方、図書館や司書さんの活用方法も書かれているので、ぜひ参考にしてほしい。
おわりに
数年に一度、東京でも雪が積もる。あなたの家の前に雪が積もらないとは言い切れない。
そんなとき、あなたが自ら雪かきを楽しんでいることを願っている。
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