第28回: 拡大する「サスティナブルツーリズム」
2021年10月27日掲載
発酵が世界から注目されています。日本から海外へ輸出される発酵食品は過去10年間で約2倍に拡大しているほか、海外では有名レストランがこぞって発酵を研究し始めています。中には「発酵ラボ」と称する研究施設を備えたレストランや、発酵を学びに日本食レストランに通う海外の料理人もいます。2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録された頃から、うまみを引き出す技術として発酵が注目されるようになりました。そこで今月は近年新しい動きが出てきた発酵食品について考察します。
■SDGS時代における発酵の再解釈
発酵とは微生物の活動のうち、人間にとって有益なものができるプロセスを指します。発酵を生み出す微生物は発酵菌と呼ばれ、大きくカビ、酵母、細菌に大別されます。食品における発酵はこうした発酵菌の活動によりもたされ栄養分や風味が作り出されているのです。
発酵を使った食品は日本だけでなく世界中にあります。カビの一種である麹菌を使った味噌や醤油、酵母を使ったビールやワイン、細菌を使ったヨーグルトやチーズなど枚挙に暇がありません。それにもかかわらず、日本の発酵技術が注目されているのは、日本各地に広がる発酵文化が極めて多様だからです。四季があり南北に長い日本列島は概して温暖で多湿な環境にあります。それは発酵菌をはじめとする微生物が生息するには好条件であることから、古来から日本各地で独自の発酵文化を育むことができたのです。
そうした長い歴史に基づくということは持続可能であったということを意味しています。つまり、現代においては持続可能な開発目標(SDGS)が掲げる17のゴールに符号しているとも解釈できます。再利用が可能な物質を新たに創り出すにも環境に負荷がかかります。しかし発酵は、すでに存在している発酵菌という資源を有効活用している点で持続可能性が高いと言えます。しかも日本はそれを古代から受け継いできているのでなおさらです。ちなみに国花や国鳥を定める国は世界に多数ありますが、国菌(日本は麹菌)を定める国は、おそらく日本以外には無いのではないかと思います。日本はそれだけ発酵を大切にしてきたのです。
■発酵技術を使うスタートアップが急増
海外に目を転じると、発酵技術を使った代替タンパク質は植物性食品および培養肉と並ぶ三本柱の一つとして数えられ、スタートアップ(新興企業)が続々と誕生しています。彼らは急成長しているプラントベース(植物由来食品)市場に発酵というバイオテクノロジーを持ち込み、ユニークな食品を市場に投入しています。
例えば、米国のパーフェクトデイ社は微生物で発酵させて動物を使うことなく「牛乳」を生産しています。地球環境を考えてベジタリアン(菜食主義者)になった創業者2人がヴィーガン(動物性を摂らない)になるのに障壁だったのが卵と牛乳。そこで研究を繰り返して行き着いたのが発酵技術を使った食品開発でした。今では自社で生産した「牛乳」をパートナー企業に委託し、チーズ、アイスクリーム、バター、ヨーグルトなど様々な「乳製品」を展開しています。同じく米国のマイコテクノロジー社はキノコの菌糸体を発酵させ、うまみ調味料や代替肉を生産しています。同国のネイチャーズ・フィンド社に至っては、国立公園で採取したキノコの菌株から「肉製品」や「乳製品」を生産するといった実にさまざまな動きがみられます。
■発酵は日本古来のフードテック
日本における発酵の歴史は古く、一説によると弥生時代の後期には麹でつくった酒があったと言われています。文献に登場したのは720年の日本書紀に「牛酒をもってもてなす」というくだりがあり、当時すでに発酵技術が普及していたことが伺えます。もともと発酵技術は中国から伝来したと考えられていますが、先述のように日本はその季節性と風土から、多種多様な発酵技術を育んできました。日本人の私でも見たことも聞いたことのないような地方の発酵食品は多く、外国人に説明を求められてうまく説明できないこともしばしばです。
こうした長い歴史をもつ発酵が海外で注目されている状況は、日本企業にとっては商機ではないでしょうか。代替タンパク質市場は急拡大しており、世界各地で様々な技術が開発され、新商品が投入されています。日本企業は今のところ代替肉(多くは大豆由来食品)が主流で、培養肉を手掛ける企業も少ないです。そして日本の消費者にはまだどこか異質なものとして捉えられており、広く普及するまでには至っていません。それが世界では逆に注目されているのですから、これまで培ってきた文化を全面に押し出すことができます。加えてSDGSが叫ばれている時代ですので、持続可能を実現させてきた日本の発酵文化は日本古来のフードテックとして大いに世界に注目されると思います。
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