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【小説】群衆とネズミ

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3万字ほどの自作小説「群衆とネズミ」をまとめております。
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記事一覧

小説⑤「群衆とネズミ」全5話

小説⑤「群衆とネズミ」全5話

 三日間の明けない夜が、至るところでの暴動を一斉に起こし始めた。「俺達はお前達と同じ人間だ」「差別反対」「平等」……自分の方こそは偉いと、日々下に見て好き勝手に文句や罵倒まで浴びせていた人間達に向けて、労働者にも心がある、ということが怒声と共に爆撃や銃声や殴打音の中で強く主張されていた。

 暴力があった。殺しがあった。爆発が一瞬の眩しさを落として空気を切り裂き、狂ったような悲鳴と暴言、飛び交う銃

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小説④「群衆とネズミ」全5話

小説④「群衆とネズミ」全5話

 僕の住んでいる部屋は、灰色にくすんだ鉄筋コンクリートの建物の五階にあった。

 建物と建物の間に挟まれた細い物件だ。昔、テナントだった各階を二等分し、数十年前からは六畳一間の住居になっている。傷や汚れの目立つベージュのリノリウムはその名残りで、狭いトイレとキッチンの他には、パイプベッドで精一杯のスペースだった。

 細いベッドマットは、クッションの一部が剥き出しになってすっかり黄ばんでいるが、ま

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小説③「群衆とネズミ」全5話

小説③「群衆とネズミ」全5話

 同僚のツエマチ君が戻って来たのは、僕がビルの横にある水道で雑巾を洗っている時だった。

 逆立ったオレンジ頭が見えたので振り返ると、彼が無邪気に「やっほー!」と手を振っていた。両手には、掃除道具ではなく袋を抱えている。恐らくは体力が有り余っているので、またしても上司に、ちょっとした小遣いをもらって買い出しにやられていたのだろう。

 小柄で細い体躯をした彼は、まだ二十歳そこそこで、顔にはまだあど

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小説②「群衆とネズミ」全5話

小説②「群衆とネズミ」全5話

「へえ、性欲がないの?」

 昔、この仕事に入りたての頃、僕には指導にあたってくれた誰よりも親身な先輩が一人いた。

 僕より一つ年上で、十六歳の頃からこの会社で働いていたカナミさんだ。愛想が良くて、仕事を片付けていくのも速くて、高い料金を払う顧客を一番多く持っていた社員だった。

 彼は、幼い頃からの小遣い稼ぎの癖が身体に染みているのか、どちらの性別に対しても快楽を与えられる人間だった。彼はあの

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小説①「群衆とネズミ」全5話

小説①「群衆とネズミ」全5話

 三日間の明けない夜が始まった。

 それが本当に三日間続いて、そうして三日後には再び昼間が訪れるのかは分からない。けれどテレビでは、この日が訪れるまで長いことそのニュースで持ちきりだった。

 何事もなく世紀末が過ぎて、新世紀がやってきた。どこかの国々では争いや緊迫したままの睨み合いが続いた。国によっては、とくに変わることもなく過ぎていったところもある。

 そんな中、ようやく数十年が回って、と

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