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胸が垂れてる事件の全容

 新人歯科衛生士の女のコが医院に来て挨拶をしたのは今朝のことだ。

「今日から宜しくおねがいします!西澤と申します」

 おっ?元気いいじゃん。うちの雰囲気にピッタリな人だな〜
どこになにがしまってあるか分かるまではバキュームホースでも持っててもらうか。なんてことを軽く考えていた。

 新人さんは明るい色の髪を後ろで結び、少し痩せ型で軽い足取りで院内をスタスタ歩く。

 午前の診療が始まり根管治療をするのにレーザーを持ってきてと頼む流れになった。

ここで問題勃発。

え〜っと……この子の名前なんだっけかな?

うちではしっかりと「山田さんソフトで仮着」などと名前を呼んで誰に指示しているかが混乱しないようにしている。

まあわからなくても名札を見ればいいや
と考えていたのだが!

いつ使うんだそのペンの束!というほどの量が胸ポケットに突き刺してあり、へんなシワができてクリップで挟んだ名札はうなだれて名前が見えない。

ナンバープレートを見せないような絶妙な角度で倒れている。

西なんとかさんでは絶対にまずい。

「なんかもっと自信をもって胸を張ってください」

なんでこんなこと言ったのかな〜

きっと、グッと胸を張ってもらったらシワが伸びてピンとした名札が起き上がってくることを期待したんだろうな。

グッと胸を張る新人さんの名札は
ダラ~ンと垂れたままだった。

「垂れている」

つい!口から出てしまった!

新人さんの顔つきがピキッとみるみる変わっていく。

あっ!これは胸が垂れていると言ったと思われた……と直感した。

ヤバい!これはヤバい!
変な汗が出てくる。

ここで弁解することはできないし(患者さんが口を開けている状態)慌てた私は

「にっしーレーザー持ってきて」

とっさにそう言ってしまった。

ザワつくスタッフ達。
うちの医院であだ名なんてありえない上にほぼ初対面に近い。

うわ~~やってしまった!

昼休みにはもう愛人説が流れてしまう!

愛人どころか何にも思ってないからこうなっているのにどうしてそうなる?

当のにっしーは……「はい」と言ってレーザーを取りに行った。

もうどうやって取り返していいのかわからない。

スタッフのリーダー格の女のコを「ちょっと……ちょっと」と呼んで恥ずかしながらどうしてこうなったか説明した。

後日スタッフの歓迎会の席で

「にっしーって誰だよ?って皆で話して笑ってましたよ」

「先生は影では『G先生』って呼ばれてましたよ」

「にっしーで!もうよくない?」

「私、友達に『にっしー』って呼ばれてましたよ」

じゃあ!これからはこんな感じで!
という流れになっていき医院の中にあだ名や隠語があふれる結果になってしまった。

その代わり以前よりもよい人間関係になった気がするので良かったのではないかと……。




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