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ひな祭りの特別な甘酒。

つい先日まで、冷たい風に首を縮こませて歩いていたというのに急に気温が上がった。

分厚いセーターの下、じわりと微かに汗ばんできたので、コートを腕にかけ歩く。


今日のお稽古はきっとお雛祭りにちなんだしつらえに違いない、なんて思いながら茶道の先生のお宅へ急ぐ。


予想通り、使うお道具も床の間も桃の節句のしつらえ。
菱餅に似たような棚(業平棚というらしい)と、床の間には可愛らしいお雛様と桃の花。

どちらも、1年ぶりの再会である。
わたしは、ここに季節の移ろいを感じに来ているのかもしれない。


ひな祭りの薄桃色の和菓子や、ひなあられ。
ちなみに去年はそこに甘酒も出てきた。

もしかして今年もあの甘酒、あるんだろうか。今年もいただけたらいいなあ、なんて食いしん坊がちらちら顔を覗かせながら、お稽古が始まる。

しばらくしてから、
「甘酒も冷やしていますからね。」
そう、先生におっしゃっていただき心の中で喜びの舞…!

この甘酒、普通の甘酒ではなく先生オリジナルレシピの甘酒。
ちなみに去年いただいたとき、あまりの美味しさに衝撃を受けた甘酒だ。

そのとき、思わず
「これには、何が入っているんですか。」
と聞いてしまった。

酒粕と牛乳、そしてお砂糖、仕上げに白ワイン、らしい。

順に紅の器に注がれてゆく甘酒。
白くとろりとした甘酒の器との色の対比になんだか惚れ惚れしてしまった。

両手を器に添えて、つうと飲み干す。
まろやかな甘さがひんやりと喉を滑り落ちる。
酒粕のふくよかさな甘さと牛乳の甘さが混じりあい、白ワインの香りがほわ、と鼻に抜けていく。

…ああ、幸せ…!

1年ぶりの再会とあって記憶通り、いや記憶以上に美味しい。

左手隣に座っていたのは、わたしの少し後にお稽古を始めた、唯一同じ年齢くらいの桜さん(仮名)。
小さく器を傾けた彼女から「美味しい。」と微かな声が溢れたのが耳に届いた。

ーそうでしょう、そうでしょう。この甘酒、格別だよね。

わたしが作ったわけでもないのに、なんだか誇らしい気持ちになってしまった。


みんなの器がすっかり空になったのを見届けて、
「おかわりもあるよ。良かったらいかが。」
と先生がにっこり勧めてくれた。

他の先輩方が
「ありがとうございます。でも、いいえ結構です。」
と微笑む中、

欲しいです!!!
とすぐにもらいにいくのも、なんだか気恥ずかしいような気がする。
けれど、やっぱりもう少しあのひんやりとした柔らかな幸せを味わいたい。

ー置いておくので、欲しい方はおかわり手酌でどうぞ。
そしてお盆に置かれたお銚子。

すかさずわたしは、まだ飲みたそうな(おそらく)桜さんに
「いかがですか。」
なんて言いながらここぞとばかり、つぎにゆく。

「あっ、ありがとうございます。良かったらまりさんもどうぞ。」
と差し出されるお銚子に
「わ、ありがとうございます。」
なんて言って器を掲げた。


ふふふ、計画通り……!!
涼しい顔をしてお酌を受けつつ、内心にんまりとする。

二杯目もすぐに空になった。
やっぱり美味しすぎる。いくらでも飲めちゃう。

しかし、甘酒の酒粕にはほとんどアルコールが含まれていないとしても、白ワインはどのくらい含まれているんだろう。白ワインはそこそこアルコール度数があるはずだ。

わたしは、さほどお酒に強い方でない。
ましてや、この後お稽古をする身。

これ以上、飲んでも赤ら顔にならないだろうか。桃色に染まっているのは、風流な床の間だけでいい。

冷静に今の自分の身体の状態を感じてみる。

ー顔の火照りなし、脈拍正常。
……よし、まだいける!!

だってさ次これを口にできるのは、また一年後だもの。


なんて自分に言い訳しながらさらにいただいたもう一杯は、やっぱりうっとりするくらい美味しかった。

3色和菓子と羊羹とひなあられ、
そして甘酒。


#茶道 #ひな祭り #甘酒
#フードエッセイ

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