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今週の読書1/11 「日没」

恥ずかしい失敗をした。こんなこと自分にあるわけがない、と思っていたけれど、こんなことになっちゃうんだな、これが加齢なのか、などしみじみ思う。

図書館で予約を入れていた桐野夏生さんの「日没」がまわってきた。話題になっていたので読みたかった。恥ずかしながら桐野夏生さんの本は初めてだ。早速読んだ。

面白くて一気に読んだ。疾走する感じで、目が活字を追う。とにかく面白い。こんな感じで読んだのは久しぶりだ。

とにかく怖い。これはリアルに起こりそうなことだ、近い未来のことかもしれない、と頭のどこかで考えてしまう。今のこの社会が、ふとした弾みにそうなりそうだと予感させるものがあるので、震える。差別やヘイトをなくすため、という建前の元に不当に言論の自由が制限されている社会(そしてそれは水面下でひっそり行われている)の中で、作家を更生させるための施設、療養所に送られてしまった作家の話だ。

療養所のやり口はかなり巧妙で、じわじわとダメージを受ける。主人公とともに、じわじわと追い詰められ、不信が募り、居心地が悪い気持ちにさいなまれる。

文脈とは関係ないが、人を黙らせるのに、精神病は利用されることが多いのだな、と。DSMー5などの診断基準はあるものの、腫瘍ができる、みたいな目に見える分かりやすさはないし、不当な言いがかりに激昂したとしても、文脈なく激昂したことだけを切り取って暴力的とも言えなくはない。医師と患者の信頼関係があってこそ、病気は病気として扱われるのだが、一歩間違えれば、それが利用され、歪められる社会というのもあるのだなと、考えさせられた。

そういった恐ろしい社会が我々が選んだ政治家によって堂々と行われ、これはおかしいのではないか、と思っているものの、声をあげずに見ているうちに、あっという間に社会が変わってしまった、というのもナチスの前例があるので、背筋が凍る。自分たちの社会はまだ引き返せるところにあるのだろうか。そんなことになる前に、声を上げることはできるのだろうか、など思う。わたしはおそらく声をあげられず、流されていってしまうのだろうな、と。そういう人が大多数な気がしているのだけれど、そんな私達が声をあげられるようになるには、どうすればいいのだろう。

言葉はとても難しいし、恐ろしいな、と。

ネタバレにならないように書くのは難しいし、うまく書けない。とにかく面白くて、怖い物語だった。

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