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何もかも憂鬱な夜に

「現在というのは、どんな過去にも勝る。そのアメーバとお前を繋ぐ無数の生き物の連続は、その何億年の線という、途方もない奇跡の連続は、いいか? 全て、今のお前のためだけにあった、と考えていい


冒頭は中村文則さんの小説『何もかも憂鬱な夜に』の一節だ。


この文章を読んだとき、私はとてつもなく感動した。

言葉ではうまく言い表せないけど、生きていてもいいんだ、そんな感覚を持ったと思う。



眠れない夜、ふと思い立ってさだまさしさんの『償い』を初めて聞いた。

私は父親を3歳の頃に交通事故で亡くしている。

私の母親がことあるごとにさだまさしさんが好きだと言っていて、『償い』っていう曲があるんだよ、と教えられたことがある。

30年近く生きてきて今まで聴いてこなかったけど、ついに聴いてみたのだ。



・・


・・・



ボロ泣きしたよね。

父を亡くした当時の母の心境だとか、事故を起こされてしまった方の気持ちとか、いろいろ考えて抑えられなくなってしまった。


人間って哀しいねだってみんなやさしい
それが傷つきあってかばいあって
何だかもらい泣きの涙がとまらなくて
とまらなくて とまらなくて とまらなくて
                    ———さだまさし『償い』より


当たり前だけど、事件も事故も起こす側にもいろいろ事情があるのだ。

悪を悪だと思ってする人はいないとよくいわれる。


みんないろいろ辛いことはあるけど、自分だけでも人には寛容でいたいなあと思った。

寛容になるには、いろんな立場の人の話を聞いて共感力を上げることが大切だ。



『償い』を聴いたあと吸い寄せられるように積読本のこの本に手が伸びた。


直感は、合っていたと思う。

最近の私の直感は、異常だ。

ソルフェジオ周波数のおかげなのか?なんて考えてしまう。

という妄想はどうでもいいのだが。


この本は孤児犯罪を扱った作品だ。

◆あらすじ
施設で育った刑務官の「僕」は、夫婦を刺殺した二十歳の未決囚・山井を担当している。一週間後に迫る控訴期限が切れれば死刑が確定するが、山井はまだ語らない何かを隠している――。どこか自分に似た山井と接する中で、「僕」が抱える、自殺した友人の記憶、大切な恩師とのやりとり、自分の中の混沌が描き出される。
芥川賞作家が重大犯罪と死刑制度、生と死、そして希望と真摯に向き合った長編小説。

とても重い内容の本。また泣いた。

芥川賞作家らしい硬派な作品だと思った。

不思議と後味は悪くない。


又吉さんの解説も良かった。こんな文章をお書きになるなんてビックリしました。

火花も読まなければ…!



感想に戻る。


どのような人間でも、芸術にふれる権利はあると、主任が言ってくれた。芸術作品は、それがどんなごく悪人であろうと、全ての人間にたいしてひらかれていると。

全ての人がもっと幼い頃に純粋に芸術を楽しめていれば、その機会を与えてやれば、世界は明るくなるのではないか。犯罪も、警察も、暴力団も、なくなるのではないか。というのは私の甘い考えだろうか。



主人公の恩師であるあの人の持つ言葉の意味が重い。


「自分の好みや狭い了見で、作品を簡単に判断するな」とあの人は僕にそう言った。「自分の判断で物語をくくるのではなく。自分の了見を、物語を使って広げる努力をした方がいい。そうでないと、お前の枠が広がらない」


「自分以外の人間が考えたことを味わって、自分でも考えろ」あの人は、僕達によくそう言った。「考えることで、人間はどのようにでもなることができる。……世界に何の意味もなかったとしても、人間はその意味を、自分でつくりだすことができる」


そう、いろいろ考えて生きていかなくてはいけない。

自分だけでもやさしくありたい。なんて思った。




どうしても辛くて眠れないときは読書をするといい。

読書は著者との対話だ。本を読めばそこには書いた誰かがいる。



今日も夜が明けた。

どんなに辛くても朝は来るのだ。

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