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ドングリに執着する男

2歳の息子は前歯が出ていて、ほっぺたがぷっくりしていてリスっぽい雰囲気がある。

本人もそう感じているのかどうか分からないが、ディズニーのキャラクターのチップとデールに変に親近感をもっているようだ。

絵本を読んでいてチップとデールの絵が出てくると必ず「これ、わたち(私)」と指をさして伝えてくる。(なぜか息子は自分のことを「わたち」と言う)

もしかしたら、息子の前世はリスであり、まだ人間に生まれ変わったことを理解しきっていないのかもしれない。


そして前世がリスかもしれないというのは別のところにも顕著にあらわれる。

それはドングリに対する執着である。

リス時代の本能が残っているようで、秋から冬にかけてはドングリ集めに余念がない。
公園などに出かけると必ずドングリを探そうとするのである。

ドングリが落ちている公園であれば、必死になってドングリを一箇所に集める作業を始める。
あまりに鬼気迫る雰囲気なので、遊びというより近付きつつある長い冬に向けての、冬眠のための準備という様子に見えてしまう。

かなりの数のドングリが収穫できると、ようやく満足したような表情を見せて、「パパ、ドングリよ」と教えてくれる。
まるで、これで越冬ができると安堵しているリスである。

ドングリが落ちていない公園に行った場合は、小石などをドングリに見立てて、仮想ドングリ拾いを始める。
小石を一箇所に集めて山のように高く積み上げる。そしてまるで自分に言い聞かせるように「これドングリよ、これドングリよ」とつぶやき続ける。

そこまでドングリに執着するのはおそらく、リス時代によほどドングリ集めに苦労したのだろう。
息子の前世はドングリが少ない地域に生息するリスで、ドングリ集めにはトラウマがあるのかもしれない。
近所のリスとドングリを巡ってのいさかいが起きたり、ドングリ大不作の年には、他のまずい木の実でなんとか飢えをしのいだりしたこともあるのかもしれない。



ドングリのことを気にするのは休日の公園遊びの時だけではない。
平日の保育園に行っている時も常にドングリのことを考えているようなのである。

なぜそれが分かるかというと、夕方に保育園のお迎えに行くと、毎日最初に「ドングリちた!(した!)」か「ドングリちない…(しない…)」と言い、その日は保育園でドングリ拾いをしたかしなかったか伝えてくるからである。

保育園の先生に公園に連れて行ってもらい、ドングリ拾いができた日は「ドングリちた!(した!)」と満面の笑みで教えてくれる。
公園に行けなかった日は悲しそうな顔で「ドングリちない…(しない…)」とドングリ収穫ができなかったことを報告してくれる。

息子にとってドングリ拾いができたことは、何をおいても一番に伝えたいことであり、最も大切なことであるらしい。

やはりリスである。

そんな息子にこの前、ものすごく嬉しい食べ物が届いた。
それはアイスなのだが普通のアイスではない。まるで息子のためのアイスであった。

義理の父の友達にアイス屋さんをしている人がいて、たまに業務用のアイスを安く売ってくれるので今回も買ってみた。
深く考えずに注文したのだが、その形を見て驚いた。

なんとそのアイスの形はドングリだった。
その名も「ドングリアイス」とシンプルイズベスト。

それまでもそのアイス屋さんのアイスを買ったことはあるが、ドングリの形をしているのは初めてである。
まるで息子がドングリに執着してるのを知っていたかのような計らいである。

息子が喜んだのは言うまでもない。
ドングリアイスを見せると、それこそ目をドングリのようにして「ドングリアイツ(アイス)だ!」と狂喜乱舞である。

もともとアイスも大好きなので、息子にとっては夢のような商品である。
「ドングリアイツ(アイス)おいちい!ドングリアイツ(アイス)おいちい!」と興奮気味に食べていた。

業務用の大きな袋いっぱいにドングリアイスが入っているのを見て息子は「ドングリアイツ(アイス)いっぱいだぁ…」と恍惚の表情すら浮かべていた。

ドングリアイスが届いて以来、息子は風呂上がりにそれを食べることを毎日楽しみにしている。

喜んで食べてくれているので、私も嬉しいのであるが心配もある。
それは業務用の袋に入ってたくさんドングリアイスが届いたとはいえ、いつかは無くなってしまうことだ。

義理の父の友達のアイス屋さんが、在庫整理の時に特別に売ってくれているアイスなので、無くなったとしてもドングリアイスを買い足すことはすぐにはできない。

このペースで食べ続ければ今月中には確実に無くなる。
ドングリアイスを期待している息子に対して、「もうないよ」と言わなければいけない日が絶対にくる。

息子はきっと泣き叫び怒るだろう。
その日のことを考えると気が重い。

今だけはドングリアイスがあり、その恩恵を受ける日々を感謝と共に享受していたい。

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