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6月の花嫁〜いま、思い返す家族写真〜
2018年6月。
私は、7年交際した夫と結婚式を挙げた。
その年の2月に、それまで同棲していた小さな部屋から、本格的に一緒に暮らせるような部屋へ引っ越した。そして、3月に入籍し、4月に結婚式場を探し始めた。挙式2ヶ月前から探し始めて、人気の挙式シーズンの6月に挙式日が決められたのは奇跡だと思う。
2ヶ月後のスピード挙式にも関わらず、プランナーさんは最善のスケジュールで進めてくださった。急な挙式にも対応してくださった会場には、今でも大変感謝している。
準備の中で、どのカップルもプランに組み込むであろう「写真」の話を今日は書こうと思う。
「結婚式にまつわる写真」といっても、本当に色々な撮影シーンがある。前撮り、挙式当日の写真、後撮り。また、撮影場所の検討や衣装の用意、カメラマンさんとの打ち合わせなどもあり、すぐには撮影とはいかない。
ある日、担当プランナーさんに聞かれた。
「親族写真や家族写真はどうされますか?」
一瞬だけ自分の目の色が変わりそうになったのを隠した。
たいていのご夫婦ならば、何も迷うことなく親族写真も家族写真も撮影一択なのだろうけれど、私たちは違った。正確には"私が"違った。
昔からどことなく両親とうまくいっていない。10代後半~20代前半にかけては、それがより顕著だった。そして、私は式のゲストに当然のように弟2人を招待する気満々だったが、小規模の挙式・披露宴(しかもかなり親しい親族のみ招待)だったため、親族の軽い事前参加可否ヒアリングを両親に任せていたところ、弟(2人のうち、片方の弟)が出欠確認リストに載っていなかった。
(あぁ、弟はそもそも呼ばないつもりなんだ…)
弟は重度自閉症だ。知的な部分でも成長が遅れるばかりか、30代の今になっても、知能は5歳で止まっている。
弟がいないのに、家族写真を撮るのか?
それは、家族写真ではないのではないか?
それが頭をよぎり、ハッとしたのだった。
しかし、私だけの問題ではなく、夫側の親族や家族写真を撮影することは当然お決まりだろうと、私は、すっと夫の顔を見て「撮るよね?」と声を発した。
夫側は、ご両親・義姉夫婦との写真と、ご両親や参列して下さる親族の皆さんとの写真を1枚ずつ撮影することになった。
私側は……
家族写真・親族写真のことを両親にも私から電話で話した。親族写真については、参列しない親族もいるので撮らないことになった。家族写真は…
母「春花はどうしたい?」
私「ナオ(自閉症の弟)がいないのなら家族写真じゃないと思うんだよね。フミ(健常者の弟)も外すことになって申し訳ないのだけど、父さん母さんとの親子写真がいいな…」
母「あんたの事だから、そう言うと思った。じゃ、そうしよう。父さんにも伝えとくね〜」
挙式当日、チャペルから出てフラワーシャワーを浴びてから、参列者全員の写真を撮影し、披露宴後には親族写真の撮影となった。夫側の撮影時間、私側は親族写真撮影がないので、ぽけーっと待つか…と思っていたところ、義母が声をかけてくれた。
「せっかく着物似合ってるんだし、こっちの撮影に一緒においで!華がある方がいいしね!」
義母はいつも優しい。お付き合いを始めたころから、我が子のように私を大切にしてくれる。大好きで尊敬している人。この十数年で、全く態度も変えないし、心底人としてできている人なんだと思っている。
挙式の一日を通して、幸せに満ち足りていた。
我が家のリビングには、参列者全員と撮った写真が飾られている。みんな幸せそうな顔をしている。
あまり見返すことがないとよく言われる結婚式の写真。特にアルバムやらに仕立てたものは、あまり見ないと聞いたことがある。私もそうで、あまり見ることはない。
ただ、なんとなく思い出して、久しぶりに写真を見てみた。
どういう思惑で、両親は、"ナオ"を招待リストに入れなかったのだろう。今なら分かる。
ナオは、ある程度、場の空気は読むが、急に奇声をあげたり、何処かへ走り出したり、動き出したりしてしまう。食事も手づかみ食べをしてしまうこともたまにあるし、会話もできない。
私から義両親には、弟のことは話していたし、障害のある人への理解もあった。夫も理解がある。
ただし、すべての参列者が理解を示すとは限らない。また、静まり返った会場になる瞬間に奇声をあげてしまうことも想定されるし、途中で走り出してしまったら、普段とは違う町の中で行方不明になるかもしれない。
何より、そうなってしまったら、両親は大事なひとときを大切に過ごせなかっただろうし、私は私で心配になって、結婚式どころではなかったかもしれない。
きっと、両親の苦渋の心遣いだったと思う。
写真のことを話した時に、
「あんたの事だから、そう言うと思った」
と言った母のひとことに、すべてが詰まっていると思う。
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