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2023年1月の記事一覧

約束

約束

約束が苦手だった。

人と会いたくないわけではない。
むしろ友達と遊びに行くのも、もちろん彼氏とのデートもすごく楽しみなのだ。
約束をして手帳に浮かれたシールなんかも貼って予定を書き込む。そこからカウントダウンが始まるとなぜだかドキドキしてしまう。
急用が入ったりしないか、朝はちゃんと起きられるだろうかなどと要らない心配がモコモコと湧いてくるのだ。

「病める時も、健やかなる時も、悲しみの時も喜び

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カメラ

カメラ

ぜんぜん似合わないのに、シャツから香る少し甘い花の匂いだとか、しっとりとした鎖骨辺りの匂いだとか、彼がまとっている匂いを嗅ぐのが好きだった。

ただ最近はそんな洗剤でも彼本人でも、私でもない匂いが時々纏わりついていることは気付いていた。
気付かれていることには気付かない。
男の人はだいたいそうやってしばらく泳がされているものだ。
どうするにしても、十分に証拠を集めるまでは、私はいつもと変わりなく振

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冬の日

冬の日

ちょっとばかり、調子に乗った。

一時はどうなることかと思っていた会社の業績がなんとか盛り返して、この冬もありがたくボーナスが出た。
長い冬の途中のピカピカに晴れた日に雪がとけ、うっかり春が来たと勘違いしたリスのように、目覚めた私は伸びをした、ような気分だった。穴ぐらからひょっこり顔を出してみると、クリスマスから年末年始の準備で人も街もそれなりに浮かれムードになっていた。
リスちゃん、つまり私は財

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夢のはじまり

夢のはじまり

一攫千金を夢見て宝くじを買い、夢は儚く三日で破れた。

白いシートを広げられ、もはや箱とも呼べないプロレスのリングのような賽銭投げ込み場には、ひらりはらりと時々お札が舞い落ちる。
五円玉で願いは叶うものなのか、神様だって本当はお金次第なのかもしれない。
財布の中身を確認し、まだ夜も明けぬ、始まったばかりの今日の必要経費を考える。
血液型も星座も干支も花びらもコーヒーも、占いはこちらの加減で信じたり

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