夢のハーブボールナイト
嬉しい贈り物が届いた。東に住む友人が「タイフェス」のお土産を、西の患者へ送ってくれたのだ。オレはタイのものがとても好き。大阪にあるタイ料理屋さんへは、片手では足りない回数リピートしている。ああ、思い出しただけでヨダレが出てくる‥
ハーブボールのことは詳しく知らなかったけれど、どうやらとても美容と健康によいものらしい。数種類のハーブを布に包みこんである。蒸して体に当てたり、入浴剤として使ったりする。いろんな流派があるらしくて、タイでは病気の治療にも使われるとか。友人は、体調を気づかって選んでくれたんだと思うと、嬉しくてたまらなかった。
さっそく今夜はハーブボールナイトだよ。大阪のアパートで、リゾート気分を味わっちゃおう。もし良かったら、通販で買って続けたいな。そこまで考えて、あることを思い出した。抗がん剤を生まれてはじめて投与したときのこと。病院から、患者へこんな注文があった。
「サプリメントなど、健康のために使っているもの、飲んでいるものなどあれば、すべて成分表などを提出してください」
当時、オーガニックな酵素とやらを飲んでいた患者は、素直に病院へ提出した。すると即日「酵素禁止」を言い渡されたのだ。抗がん剤との相性がよくない、今のエリィさんには栄養価が高すぎる、等々ダメ出しの数々‥あれはがっかりだったなー。酵素を飲んでいたときは、けっこう調子がいいと感じていたもので。
まさかこれは飲むものじゃあるまいし、大丈夫だとは思うけど。患者のプロとしては、一応ハーブボールのことを主治医へ話しておこうか。先生はおしゃれ女子だから、興味をもってくれるかもしれないよ。いただいたハーブを説明書に従って冷凍庫へ入れ、ハーブボールナイトは延期とした。
診察日。満を持してハーブの説明書を持参した。
エリィ「先生、ちょっとご相談が‥これ、なんですけど。こないだ友人にハーブをもらって‥」
先生「あー‥ハーブねぇ‥‥」
あれ?テンションがえらく低いんですけど?
エリィ「いろいろハーブが調合されていて‥このボールを体に当てたりする‥これ使っても大丈夫でしょうか」
先生「うーん‥それは、やめておいたほうがいいですねぇ」
先生は、差し出した説明書を見もしない。ただハーブと聞いただけで即決している。
エリィ「天然のものばかりでできていますけど、ダメですか」
先生「いや、抗がん剤も天然のものでできていますよ」
患者は黙り込んだ。その、天然ものの抗がん剤で腹を下し、こないだ入院した病人は、こちらでございます‥‥
先生「絶対にダメということではないんです。ひょっとしたら、いいのかもしれない。ただ万が一アレルギーを起こしてしまったら、大変なことになります。」
エリィ「‥‥」
先生「たとえば間接性肺炎を起こすかもしれないし、肝機能がやられてしまうかもしれない。どうなるかわからないものは、すべて避けるべきです」
患者は日常的に、できれば体に良いものを、積極的に取り入れたいと思って暮らしている。それが患者心というもの。そして、周囲からはいろんな「体にいいもの」をいただいている。それが患者の日常だ。正直、ハーブボールは絶対的にいいと思っていたよ。
とにもかくにも、病人へお見舞いや贈り物をする機会がある人はどうかご参考までに。
じゃあ、なんにもあげられへんやん!
ええ、本当にそう思います。病人と会うときは、手ぶらがいちばんですよ。病人は、ふつうに人と話したり会ったりするだけで、幸せ満開。生きてるだけでまるもうけ。プライスレスにはかなわない。
それにしても抗がん剤患者って、気難しいね。ひとごとのようにそう思って、夢のハーブボールナイトを諦めた。
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