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PTA主催の秋のコン サート

多少なりとも器楽を習ったことのある人ならば、プロの奏者の凄さが分かるはずです。 PTA 主催の秋のコンサートに寄せられた子どもたちの感想からも、その凄さが伝わってきます 。そのいくつかを紹介します。

僕が一番すごいと思った曲は、スペイン舞曲です。すごくテンポが速くて難しそうだったし、最後のところなんて、急に速くなって、すごいと思いました。どうして間違えずに、あんなに速くピアノを弾いたり、バイオリンが弾けたりするのかなと思いました 。世界にもっとすごい人たちがいたら、また聴いてみたいです。

 私はスペイン舞曲を聴いたとき、演奏している人たちの弾き方が凄くかっこよく見えました 。

私が一番心に残った曲は愛の挨拶でした 。なぜなら、お二人が「これからよろしくお願いしますという気持ちで・・・」と言って演奏した時に、私は「これが挨拶なの?凄すぎる!」と感激してしまったからです 。

あまり期待していなかったので、演奏を聴いてびっくりしてしまいました。 バイオリニストの野口千代光さん(紀尾井シンフォニエッタ東京)もピアニストの黒川浩さん(フェリス女学院大学助教授)も、あれだけ綺麗な音色を出せるようになるまで練習したんだろうなぁと思いました 。

特に印象に残ったのがバイオリンの激しさです。 どうしてあんなに難しいことが出来るのか、不思議でした 。

スペイン舞曲のとき、バイオリンの弓が生きているように動くのが、とっても印象に残りました 。


プロの凄さは、練習における忍耐強さと恵まれた才能の合一によって生み出されるものであり、私達聴衆にとっては、かけがえのない至宝そのものです 。厳しい修練に堪え、己の才能を開花させたプロがいてくれるおかげで、私たちは崇高な音楽に触れることができ、音楽することの喜びを奏者と共に分かち合うことができます。しかし、残念ながら、日本では、クラシックの分野におけるプロの凄さがあまり認識されていないように思います。

最近、ほど近くに、収容人数1000人程度の響きの良いクラシック専用のコンサートホールができました 。私にとってはとても喜ばしいことです。

10月31日に、このホールで、東京クヮルテットの演奏会が開かれました 。響きの良いホールの中では、それこそ緊張感に満ちた迫力ある高みに上る演奏が繰り広げられました。 

第一バイオリンはボロディン弦楽四重奏団の第一バイオリンを20年近くも務めたミハイル・コペルマンさん、第二バイオリンは池田菊衛さん、ビオラは東京クヮルテット創設者の一人、磯村和衛さん、チェロはロンドンのロイヤルフィルハーモニー管弦楽団の首席チェリストのクライヴ・グリーンスミスさん 、いずれも、 第一級の奏者で プロの凄さを満喫できる絶好の機会でした。

 ところが、その日の客の入りは6割程度と少なく、本当に惜しいなぁと思いました。ここに居合わせた聴衆の誰もが、そう思ったに違いありません。 数少ない聴衆の惜しみない精一杯の拍手には今日の演奏の素晴らしさを称える気持ちと聴衆が少なくて申し訳ないという二つの気持ちが込められていたように思います 。私は、明日の日本公演最後の会場であるサントリーホールが満席であることを祈りつつ会場を後にしました。

せっかく地方都市に良いホールができてもプロの凄さに畏敬の念を抱く聴衆が育っていなければ宝の持ち腐れです 。

そうした暗雲漂うお寒い音楽シーンの中、学校教育の情操教育の脆弱さを打開する先の PTA 主催の秋のコンサートが光彩を放つホットな取り組みであったことは間違いありません。                                                         (1999)

(See you)