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岸辺のいきもの

岸辺の亀とクラゲを見た。

こじんまりしているけれど、確かに演じられてきた作品の息吹が聞こえるような劇場。下北沢のシアター711。

現代劇を初めて体験した身にとって、まず驚いたのはセットの現実感だった。おとぎ話でもファンタジーでもなく、多摩川沿いのアパートの3階。住んで3年目くらいで駅からちょっと遠いけど近場にスーパーがあって、ベランダからの景色が綺麗。
何も言及されなくても、流れた時間が見えた。

自分の家から500m圏内で見たような生々しさで見せられる日常がゆるやかに軋んでいく転落がたっぷり2時間続くのはかなりのパンチだった。最後まで登場人物の誰のことも好きになれなかったのは初めてかもしれない。そして誰も幸せにならなかった。

亀とクラゲはどちらも綺麗な生き物だと思う。劇中でよく使われた雨の音と夜の光も心地よかったし、その冴えた海のなかで泳ぐ生き物はやっぱり人間とは違ったのだろう。

終演後、重い余韻を引きながら公演チラシを読むと、監督の方がタイトルに特に意味はないとコメントしていた。登場人物、というか人間の誰にもタイトルの美しさは当てはまらなかったと思い出した。厭な気持ちになりながらもストンと腑に落ちた。

欠陥のない人間はいない。欠けた部分を埋めてくれる人に出会った時、合わさった形が歪んでいることにはきっと誰も気づけない。

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