マガジンのカバー画像

510516

114
運営しているクリエイター

#エッセイ

チェンジ!

軽く髪を引っ張られ、髪をそぐ小気味よい音が響く。
ぼくはこの週末、2ヶ月以上ぶりに髪を切りに来ていた。できれば1ヶ月、少なくともひと月半に一回くらいのペースでは切りたいのだが、今回はなかなか行く気にならず伸び放題になってしまっていた。
間が空いたついでに切りに行くお店も変えた。といっても、このお店の美容師さんには、延べ10年以上はお世話になっている。
あ、いまバリカンに持ち替えた。髪を刈る軽い音が

もっとみる

オレンジ色のおにぎり

学校を卒業し、大阪でひとり暮らしをしていたぼくは、阪神大震災がきっかけで、明石にある実家に帰ってきた。
引越しの荷物を家に入れ、片付けの済まないまま、2階にある自室でマットレスの上に寝っ転がり天井を眺めていた。南向きの窓からは太陽の光が差し込んできている。
もうすぐ昼だ。
もう春とは言え、鉄筋コンクリートに絨毯直張りの床は冷たい。
震災の影響で昼間は国道が閉鎖され、夜中でも渋滞する。大阪南部、泉大

もっとみる

月光(800字)

声が聞こえたような気がして目が覚めた。
気のせいではない。小さく何か声が聞こえる。
僕は目が覚めたが二段ベッドの上側で寝ている弟は眠っているようだ。
左手側にある窓からはカーテン越しに月の光が差し込んでいた。
起き上がりベッドからおりる。畳の床一面に散らかった漫画をよけながら部屋の出口へ向かう。襖を開けると声ははっきりとしてきた。
両親の声のようだ。声の調子からどうやら階下で言い合いをしているらし

もっとみる

匿名の声たち(800字)

委員長が黒板に何か書いている。悪代官役と読めた。
劇の配役を立候補と投票で決めていた。僕はうつろに黒板を眺めていた。

委員長がこちらを向いた。
「立候補はいませんか?」
誰も手をあげなかった。彼は続けた。
「では推薦は?」
静まり返っていた。
その役は尊大でわがままな悪役だ。
格好悪い。いつもの目立ちたがりも手をあげなかった。
「いませんか!?」
彼は叫んだ。
その後、困ったような顔で左前の担

もっとみる

温度(2070字)

性というテーマで思い出せる 1番古い記憶はなんだろう。しばらく考えていると思い出した。あれは小学生高学年の頃だった。きっとあれがぼくの初恋だったのだろう。

玄関先にランドセルを置いて自転車に乗った。町内の公園に向かう。誰とも待ち合わせなんてしていないが、いつも公園には誰かしら知ってる友だちがいる。遊び相手にはこと欠かない。

公園には顔見知りではあるけどほとんど喋ったことない女の子の姿だ

もっとみる