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中国研修 その1

新入社員研修の最後には、2週間の中国研修というものがあった。
私は旅行や遠出、特に宿泊が好きではないので、考えるだけで憂鬱だった。

中国研修前日、その他の研修は一通り終了した。
早く帰って中国に行く準備をしなければ と思いながらハイチュウを食べた。

すると、歯の詰め物が取れてしまった。最悪だ。
明日から2週間は歯医者に行くことができない。
定時でダッシュしたとしても会社を出るのが18時頃だ。
普段行きつけの歯医者には絶対間に合わない。
近くの歯医者を急いで調べると18時半までやっている歯医者があった。

急いで駆け込んだが、ボロボロの頼りない昭和感溢れる歯医者だった。
設備を見ても、ドリフのセットかのような雰囲気だった。
しかし詰め物が取れただけなので、おじいちゃん先生にさっと治してもらえた。

そんなこんなで前日はバタバタしたが、いざ中国に旅立つ日を迎えた。
夜は憂鬱で眠れなかった。朝も頭がぼーっとしている。
あー、行きたくない。

会社に集合し、同期全員で空港までバス移動だ。
私と同じように嫌そうな人と中国を楽しみにしている人と半々の割合だった。
ちなみに今回向かう先は、中国の都会ではなく、済南(ジーナン)という工業地帯だ。

済南

日本の空港に着き、飛行機の出発時間まで自由行動となったので、同期とお昼を食べた。
しばらく日本食は食べられないなと思いながら、親子丼を選んだ。
あー、行きたくない。頭がぼーっとする。
そう思いながら、親子丼を食べ、出発時間まで待機した。

いよいよ飛行機に乗り込み、私はすぐに寝た。
気づくと中国に到着していた。あっという間だった。

飛行機から降り、ゲートを出ようとすると、なにやら空港の職員達がざわついている。
同期の皆で「なにか騒がしいな」「これが中国の空港の雰囲気か」と話しながら歩いていると、職員が私の方に近づいてきた。

そして、早口の中国語で怒ったように私に話しかけてくる。
只事ではないことは伝わってくるが、何を言っているのかさっぱりわからない。
すると、同期に中国語が得意なメンバーがいたので、すぐに駆け寄って通訳をしてくれた。

同期の通訳によれば、「サーモグラフィーで見たところ、君は高熱があるからゲートを通すわけにはいかない」という内容だった。
私が高熱?何を言っているんだ。
しかし言われてみれば、今日は朝からずっと頭がぼーっとしていた。

そのまま私は職員に引っ張られ、空港内の奥にある全面コンクリートの刑務所のような、地下牢獄のような、取調室に連れて行かれた。

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職員3人が私を責め立てるが、何を言っているかさっぱりわからない。
職員達も少しはジェスチャーなどしてくれればよいものを。

私はどうなってしまうんだ。
日本に帰されるのか?同期達はいまどういう状況だ?と一人不安になりながらも、なす術なく取調室の中にいた。

しばらくして、中国研修担当の中国語が流暢な上司がやってきた。
職員となにやら早口で大声で話している。
何を言っているかわからないので全て喧嘩に見える。

途中熱を測るよういわれ、体温計を渡された。
38.8度ほどあった。確かに高熱だ。

そして、昼食は何を食べたかを聞かれた。
正直に「親子丼」と答えた。
すると、鳥インフルエンザの疑いがあるので絶対に通すわけには行かないという話になり、上司と職員は言い争いを始めた。
上司は私に「よりによって親子丼なんか食べやがって」というようなことを言った。
「ハハ...すみません...」とだけ答えた。

私はぼーっとした頭で どうにでもなれ と思いながら、ただただ座っていた。

職員に連れて行かれる時、同期たち全員が不安そうな顔でこちらを見ていたのをふと思い出し、皆を待たせているのではないかと申し訳なくなった。

続く。

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