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銀河フェニックス物語 <恋愛編>  第六話 父の出張(22)

テニスの試合はティリーとレイターのペアが勝利した。
銀河フェニックス物語 総目次
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* *

「はあ、緊張しましたね。それにしても、レイター君、すごいわ」
 ティリーの母は拍手をしながら父親に声をかけた。
「ちょっと運動ができるからどうだと言うんだ。ティリーもアンドレ君と会って少し頭を冷やすんじゃないか?」

ティリー両親父シャツ

「どうでしょう?」
「あんな柄の悪い奴より、アンドレ君のが落ち着いていてよっぽどいいじゃないか。あいつは口のきき方からしてなっとらん」
「わたしにはちゃんと話してますよ」
「とにかく、ティリーに対する態度もよくない。彼女を大切に、もっと優しくするべきだろが」
「そうですか? レイター君はよくティリーのこと見てると思いますけど。それに面白い」
「面白い? 母さんは無責任だなあ」
「ティリーは外の世界でいろいろ経験して、随分成長したと思いません?」
「そうだな」
「レイター君がちゃんと見守ってくれているからですよ」
「……」  

* *


 制汗剤の香りがひしめく更衣室で友人たちに囲まれた。
「ティリーの彼氏、ってすごいね」
「レイターさん、かっこよかったわ」
 彼氏だったアンドレがほめられるのには慣れている。学生時代にはおどけてのろけたものだ。けど、レイターの場合、素直に反応できない。
「そ、そうかな」 
「彼は一体どこで、テニスやっていたの?」
 リオが聞いてきた。
「さあ?」
「つきあってるのに知らないんだ。彼の運動神経、並じゃないよ。『銀河一の操縦士』って一体何者なの?」 
 知りたがりのリオの追求。連邦軍の特命諜報部員だなんて口が裂けても言えない。
「副業でボディガードをやってるから、身体は鍛えてるのよ」
「どう見ても普通じゃないよね」
 そこは同意する。
「うん、普通、じゃないと思う。でも、どんどんわたしの中ではあれが普通になってきてるの」
「ふぅ~ん。その適応力、というか鈍感力がティリーらしいな」
「鈍感? わたしが?」
「気づいてないでしょ」
 リオが意味ありげに笑った。
「どういう意味?」
「次、私にシングルの試合で勝ったら教えてあげる」
「えー、それじゃ、一生聞けないじゃないの」

 鈍感だから自分の鈍感さに気付けない、ってことがあるのだろうか。昔からリオはみんなの恋愛相談にのっていて観察眼が鋭い。
 そんな彼女に卒業の日に言われたことを思い出した。「ティリーとアンドレのカップルだけは、くっついたのも別れたのも、想定外だったよ」と。

* *


 クラブハウス脇の水飲み場でレイターは頭から水を浴びていた。
 視線を感じて振り返ると、後ろにアンドレが立っていた。
「何でい。不満げな顔だな。試合に文句でもあんのか?」
「いえ、僕の力不足を認めます。ただ、聞いておきたい。あなたは、ティリーを幸せにできますか?」

アンドレ後ろ目む

「あん? 当たり前ぇだろが」
「彼女を泣かせたら、僕、彼女を迎えに行きますから」
「は?」
「別れた僕が言うのも変だけれど、あなたより僕の方が彼女を幸せにできる。あなたからは危険な香りがする」
 レイターはくんくんとシャツのにおいを嗅ぐふりをしながら、アンドレをにらみつけた。
 こいつは人を殺したことなんてねぇんだよな。俺だって好きでやってんじゃねぇんだよ、あんたらの普通の生活のためだっつうの。
「ったく、何も匂わねぇよ。あんた、お外の空気を吸ったことがねぇんじゃねぇの。チャイルドロックのかかったお部屋にいるせいで」

ポーズゆるシャツにやり逆

 口の端で笑って挑発する俺を、あいつはぐっと唇を結んでにらみ返してきた。
「僕は本気ですから」
 それだけ告げるとくるりと背を向けて歩き出した。アンガーマネジメントもできる欠点のない元生徒会長さんか。

 俺は、ティリーさんのように鈍くねぇ。わかってるよ、わざわざ念を押さなくても。あんたがいい加減な気持ちじゃねぇことなんて。


* *

 リオに聞かれる前に聞いておけばよかった、と思いながらティリーはレイターの顔を見上げた。
「レイターは、どこでテニスやってたの?」
「うーん、やってたっつうか」
 歯切れが悪い。
「あんな変化球、絶対初心者じゃ打てないわよ。経験者なんでしょ」

n37@白襟やや驚くカラー

「セデス王子って知ってるだろ?」
「知ってるわよ『暴れん坊王子』でしょ。王族のプロテニスプレイヤーって有名だもの」
 そこまで言って気が付いた。
「警護したことがあるの?」
(23)へ続く

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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」