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銀河フェニックス物語 <恋愛編>  第六話 父の出張(15)

ティリーが元カレとテニスをする様子をレイターはベンチで見ていた。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>第五話「父の出張」①  (12)(13)(14
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 将軍家ってところは戦争状態が「普通」だ。
 そんな中でも俺がフローラやロッキーと過ごしたハイスクールの頃は平時だった。あの頃の俺の暮らしはアンタレスの普通の生活に近かっただろう。

トランプバック白

 とはいえ、裏番張って家出してマフィアと喧嘩って毎日は、ティリーさんの両親が考える「普通」とはおそらく違う。

 ティリーさんは元カレとにこやかに話をしている。この星で平穏と幸福に包まれて暮らしてたってことが突き付けられる。
 俺がポケットをひっくり返したってティリーさんに与えてやれないモノ。それをアンドレって元カレはあふれるほど手にしていやがる。


* *


 ティリーはちらりとベンチを見た。レイターとパパの様子が気になる。アンタレスの日差しで雪解けた、という気配はない。レイターは無表情だ。何を考えているのだろう。
 リオが言う通り、元彼とテニスをしているのを現在いまの彼氏が見ている状況は不自然かもしれない。わたしだけ楽しんでいることに罪悪感もある。ベンチに近づき声をかけた。
「ねえレイター、これからワンセットマッチで混合ダブルスの試合形式をやるんだけれど、テニスはできないの?」
「あん? 誰ができねぇっつった」
 不機嫌そうな声が返ってきた。
「だって、さっき」
「好きじゃねえ、っつったんだよ」

 背後からアンドレの声がした。
「ティリー、僕が君とペアを組むよ」
 その発言をさえぎるように目の前のレイターがすくっと立ち上がった。
「しょうがねぇな。テニスぐらいやってやるよ」

練習@シャツへの字逆

 その態度からわかる。やっぱりこの人、アンドレのことを気にしてたんだ。誘ってよかった。

 わたしとレイターは、くじの結果、アンドレとリオのペアと対戦することになった。
「あらら」
 リオが意味深な視線をわたしに送ってきた。

 ベンチで観戦しているパパとママの会話が耳に入る。
「お父さん、何だか面白い展開になりましたね」
「アンドレ君はテニス部のキャプテンだったんだろ。それに引き換え、何だあいつの構えは。やったことないのか」
 
 レイターは借りたラケットを右手に、コートで仁王立ちしていた。服も靴も普段着のままだ。小声で確認する。
「レイターって、テニスをやったことあるの?」
 どこか投げやりな答えが返ってきた。
「あるさ。ただダブルスはやったことねぇから、ティリーさん頼むぜ」
「う、うん。任せて」
 思わず返事はしたけれど、テニスは久しぶりだ。しかも上手とは言い難い。一方、リオたちは今も練習を続けていて、アンドレは全国大会で六位入賞の腕前だ。あっという間に勝負がついてしまうかもしれない。

「ティリー、悪いけど手は抜かないわよ」

リオ真面目

 リオは女子部のキャプテンだった頃から遊びだろうと何だろうと勝負に真剣だ。
「わかってるわ」
 まずは、リオがサーバー。わたしがレシーバーだ。
 彼女は速くて力強いサーブが持ち味。その代わりコントロールが甘い。トスが上がった。

 パシンッツ。

 は、速い。学生の頃より上手くなってる。
「サービスエース」
 一歩も動けなかった。

「ご、ごめん」
 レイターに謝る。
「へぇ、彼女なかなかやるじゃん」

 次はレイターがレシーブの番だ。
 リオがサーブを打とうとするのだけれど、レイターがまったく構えないのでとまどっている。
「レイター、ちゃんと構えて」
「あん? 俺ならいつでもいいぜ」
 ラケットが下を向いている。どう見てもただ立っているだけだ。大丈夫だろうか。
「行くわよ」
 リオがサーブを放った。女子とは思えない威力のあるファーストサーブ。     (16)へ続く

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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」