銀河フェニックス物語<出会い編> 第十一話(8) S1を制す者は星空を制す
<第十一話のあらすじ>
新型船プラッタの発表会で落ちてくるミラーボールからレイターがエースを守った。そこで初めて、ティリーはエースの命が狙われていることを知った。(1)~(7)
レイターはわたしの警護というよりエースの警備陣営に組み込まれていたのだ。
何も知らされていなかった自分が悔しい。
クリスさんが提案した。
「明日、サーキットで行われるCM撮影のことですが、レース後まで延期してもらえませんでしょうか?」
レース前日の明日、プラッタをスタート地点の滑走路へと移動する。
それに合わせて、エースがプラッタの横に立ってコマーシャル用の映像を撮る手筈になっていた。
「明日から観客スタンドには一般客の入場が始まります。手荷物検査はしますが狙おうと思ったら三百六十度どこからでも狙えます。我々にも防ぎようが無いんですよ」
クリスさんが言っていることはもっともだ。
スタートとゴールを兼ねる滑走路。それを挟む観客席には八万人が収容できる。
「やむを得んな」
メロン監督もうなずいている。
わたしは手帳を検索して広報のスケジュールを確認した。
撮影をS1プライムの後に回してもCM制作には間に合う。
わたしは発言した。
「三日程度でしたら撮影が遅れても大丈夫です」
「それはできない」
エースが即座に反対した。
ドキッとした。
憧れのエースに否定されると気持ちがへこみそうになる。
「時間の問題じゃない。時期の問題だ」
エースの言っている意味がわからない。
その場にいる全員がエースの次の言葉を待った。
「・・・だから、レースで僕が勝つかどうか、わからないじゃないか。S1プライムで負けた後に一体どういうCMを撮るんだい?」
エースは机の上を指でトントンと叩きながら一言一言を選ぶようにして話した。
無敗の貴公子が負ける。
想像もしていない言葉だった。
今、エースは予選でトップに立っている。ポールポジションでの撮影は彼にもプラッタにもふさわしい。
だけど、もし負けたら・・・。
エースはどんな表情をカメラの前で見せればいいのだろう。
プラッタはエースの記録に傷をつけた船として名を残すことになり、売上にも影響する。
エースが抱えているプレッシャーの大きさを初めて知った。
彼はレーサーであると同時に広告塔であり経営者でもあった。
彼の判断には従わなくてはならない。
「僕は全ての仕事を最高の状態でやっていきたいんだ。悔いのないように」
エースはポールポジションで、王者としてコマーシャルに出なくてはならないのだ。命に変えても。
エースの強い思いは、わたしの心に響いた。
わたしだけじゃない、そこにいた社員全員に伝わる。
それまで黙っていたレイターがふらりと立ち上がると警備担当のクリスさんを見た。
「クリス。俺は部外者だが、ご依頼人様がやりてぇって言うならやるしか無ぇんじゃねぇの」
そしてレイターは自分の手のひらをエースの目の前五センチあたりにかざした。
意味不明のポーズをとりながらエースの目をにらんで言った。
「あんたが襲われたいのは勝手だが、守るほうは命がけだってこと忘れんなよ」
エースは口を真一文字に結んでうなずいた。
* *
夕陽がサーキットを照らしている。
S1プライムのために新築された建造物。明日からここは観客であふれる。
レイターは観客席のスタンドから滑走路を見下ろしていた。
スターティング・グリッドにはS1機の駐機場所を示す白いラインが描かれている。
ポールポジションのエースのプラッタが駐機する場所はあそこか。
T・Tと黒蛇の会話を思いだす。
『エースがスターティング・グリッドに出てきたところを狙う』
スタンドからの距離を確認する。
RP12の軽いレーザー。
その射程距離内で一発で仕留められる場所。
そして、逃走のための退路を確保できるポイント。
『これまでに俺が失敗したことがあったか』
経験に裏打ちされた自信のある声だった。
あいつは上等なプロの殺し屋だ。
とはいえ、俺もプロのボディーガードだからな。
さて、T・T、あんたはどこからどうくる? (9)へ続く
ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」