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銀河フェニックス物語 <恋愛編>  第六話 父の出張(17)

 レイターは素人にしか見えない構えから速い球を打ち返していた。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>第五話「父の出張」①  (12)(13)(14)(15)(16
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* *

 レイターの打球の速さに驚いたリオはアンドレに近づいた。

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「ティリーの彼氏、結構やるわね。フォームはめちゃくちゃだけど相当な反射神経だわ」
 アンドレも困惑している。
「彼が初心者なのか経験者なのかよくわからないが、変化球で攻めてみよう。ティリーもカットボールは苦手だ」
「そうね」
 学生時代、へっぴり腰だった彼女のプレイをリオは思い出した。アンドレの言う通りに、回転のある球をティリーに向けて打つ。

 ティリーのラケットに当たったボールは、想定通りのはじくような軌跡でネットに引っかかった。ティリーは泣きそうな顔で彼氏に謝っていた。

 リオがアンドレにウインクを送る。
「作戦成功ね」

 今度はアンドレが回転をかけた。ティリーの彼氏に飛ぶ。お手並み拝見だ。経験者かどうかこれでわかる。
「レイター、変化するわよ」
 ティリーが声をかけた。アンドレの球は変化するとわかっていたところで返せるほど甘くはない。バウンドしたボールが低く横滑りする。氷の上で跳ねたようなイレギュラーな動き。

 彼はすくいあげる様にしてコンパクトにスイングした。
 スパンッ。   

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 うそでしょ。ボールが返ってくる。慌てて前へ出る。だめだ、届かない。ネット際でこちらのコートに落ちた。
 アンドレも驚いている。
「あの球が返せるとは、彼は、力任せの素人というわけではなさそうだな」
「コースもちゃんと見て返してきてるわ」
 銀河一の操縦士というのは何者なのだろう。彼に球が飛ぶと厄介だった。強打、フェイントを打ち分けてくる。全然初心者じゃない。
 ティリーのミスでこちらにポイントは入るけれど、差が開かない。

 リオは汗をぬぐうアンドレの横顔を見た。
 珍しい。大会でも冷静な彼が闘志をむき出しにしている。
 アンドレはティリーのどこが好きなんだろう。学生時代、二人が喧嘩したという話は聞いたことがなかった。ティリーが悪い子じゃないことはわかってる。けれど、推しのエースを追いかけてアンドレと別れると聞いた時は信じられなかった。茫然としたアンドレを初めて見た。
 アンドレは未練があるとは一言も言わない。でも、わかるよ。今もティリーを待っていること。そこへあの子は、随分と軽いノリの彼氏を連れて帰ってきた。相変わらず無自覚に人を傷つける。

「アンドレ、この状態を打開するためにわたし、ティリーを狙うわよ」
「仕方ないね」
 ボールを持つ手に力が入る。ティリーに集中攻撃を仕掛けた。 
 

* *

「ネット」
「アウト」
 ティリーはがっくりと肩を落とした。次々とわたしに変化球が飛んでくる。リオに狙われている。感情をぶつけられるような執拗な攻撃。そして、相手の思惑通りにことごとくミスをした。
「レイター、ごめんね」
「だから言ってるだろ、あんた、もう少し運動したほうがいいって」
「仕事が忙しいの知ってるでしょ!」

 コートチェンジのタイミングでベンチで汗を拭く。パパが憤慨しながら話しかけてきた。
「汚いな。彼女はティリーばかり狙っとるぞ」

 隣でレイターが水を飲みながら応じた。
「汚ねぇわけじゃねぇよ。弱いところが攻められるのは当り前だ。俺がリオさんにぶつけてやれば、おあいこだぜ」
 レイターが本気でリオを狙ったら、あの剛速球で怪我をしそうだ。
「そんなことはやめて」
「ってあんたが言うと思うからやらねぇだけさ。ま、あのアンドレって優等生があんたを狙ってきたら容赦しねぇよ」
 と刃物でも投げつけそうな顔でアンドレを睨みつけた。       (18)へ続く

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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」