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銀河フェニックス物語 <ハイスクール編> 第六話 不可思議な等価交換(下巻)

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 その日もフローラは、散らかったレイターの部屋にいた。

 レイターは、机の上に置かれた大きな戦艦のプラモデルを指さしながら、わたしに問いかけた。

「こいつのエンジンの推力をあげたいんだよ。APバーナー使ってみるってのはどうかなぁ」

14レイター小@Tシャツ後ろ目やや横

 アマ星の石の密売によって、この部屋に存在しているプラモデルだ。
 違法行為を黙認していることについて、わたしは、通報の義務はないのだ、と自分を納得させている。 

 彼はこのプラモデルが大層気に入っていて、本物の戦艦を想定しながら改造を繰り返していた。

「この型のエンジンでは難しい、というか費用対効果が悪すぎるわ」
「やっぱそうか」

 レイターは宇宙船の天才で、次から次へと改良のアイデアを思いつく。ただ、中にはどう考えても実現不可能なものも含まれていた。

 レイターの立てる仮説を、わたしが頭の中で検証する。
 毎日、同じようなことを繰り返しているけれど、飽きることはない。

 わたしは、宙航理論がそれほど好きというわけではなかった。
 たまたま家に、お父さまの本があったから読んだだけ。でも、今は違う。こんなに面白い学問だったとは。


 突然、目の前が暗くなった。発作だ。
 プラモデルにわたしの手が当たった。

 ガチャーン。

 戦艦が床に落ちる音が聞こえた。
「フローラ!」
 意識が遠くなる。

 レイターがわたしのブレスレットから、薬を取り出しているのがぼんやりと見える。
 薬が口の中に放り込まれ、わたしは意識を取り戻した。

「大丈夫か?」
 レイターの声がはっきりと聞こえる。

 薬が無ければ良かったのに。
 そう思った自分に驚いた。
 以前、レイターの前で倒れたことを思い出して、唇が急に熱くなった。

 わたしは、何てことを考えているのだろう。
 薬がなければ、レイターはわたしに人工呼吸をしたはずだなんて。

 レイターの目が、わたしの目をまっすぐにとらえていた。
 わたしの考えていることと、彼の考えていることがシンクロしている。

頬に手 Tシャツ 

 レイターはゆっくりと顔を近づけると、わたしの唇に唇を重ねた。

 そうすることが正しく、ごく自然な事であるかのように。

 レイターは唇を離すと
「念のため、人工呼吸もしといた方がいいかと思って」
 と照れた笑いを見せた。

 わたしは、自分でもびっくりすることを口にした。
「もう少し続けて・・・」

 何も言わずにレイターは、もう一度、優しくわたしにキスをした。

 心臓の鼓動が速まっている。
 これまでに経験したことのない幸福感が、わたしを包む。

 これがおそらく恋というもの。わたしは文献ではない、現実の世界にいる。

 わたしは目を伏せて床にしゃがみこんだ。
 大胆なことを口にした自分が恥ずかしくて、レイターの顔がまともに見られない。

「ごめんなさい」
「あん?」
「大事な戦艦が壊れてしまったわ」

 床に落ちて壊れたプラモデルの破片を拾った。
 レイターはわたしの横に座ると、わたしの手に自分の手を重ねて言った。
「船よりあんたのが大事だ。あんたより大事な物は無ぇ」

16振り向きTシャツ

 急にお兄さまの言葉を思い出した。『レイターは女性なら誰にでも優しい』

 レイターの目を見つめた。

 たとえ、口からでまかせの嘘であっても、わたしはこの人の言葉を信じてしまう。恋とはそういう病なのだ。

「俺はあんたが欲しい。俺とつきあってくれねぇか」
 彼の語る『欲しい』という言葉が、わたしの心に染み渡った。

 その言葉からはわたしの存在を、自分だけの物にしたいという欲求が感じられた。
 意味が無いと思っていたわたしの人生に、急速に存在価値を与える言葉だった。

 そして、わたしも同じことを考えていたことに気がついた。
「わたしも、あなたが欲しい」

n200フローラ横顔逆真面目

 わたしたちはもう一度キスをした。

 蝶が花の蜜を吸うように、優しく、わたしを求める接吻。
 脳が溶けながら考察する。

 アマ星の石は等価交換でプラモデルになった。
 わたしの恋は一体どこから生まれてきたのだろう。等価交換しなくても生まれ出づるものが、この世界にはある。

 そんなことをぼんやりと考えながら、幸せな時間に浸っていた。    第七話「愛しき妹のために・・・」へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」