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銀河フェニックス物語<出会い編>  第一話 永世中立星の叛乱 (9)

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 永世中立を宣言する高重力の惑星ラールシータ。

 軍艦の超高重力検査はこの星でしかできない。我が銀河連邦軍も敵であるアリオロン軍も中立であるこの星に検査を委ねてきた。
 そこには軍の機密が守られるという信頼関係があった。だが、その均衡が破られた。

 私は説明を続けた。
「きのう、軍の視察でガーディア社の高重力検査場へ出かけた。そうしたところ、新型戦艦の情報が流出した形跡があった。それをお前に調査してもらいたい」
「あんたがそのまま調べてくりゃよかったじゃねぇかよ」

「検査場内は個別重力制御で入場区域が限られている。逸脱すると十G状態に襲われるんだ。お前は明日、ガーディア社の検査場へ行くんだろ。その時に、アリオロン軍の検査場を調べてきてほしい」

「おいおい、俺だって十Gでつぶされるのはごめんだぜ」

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「徹夜でこれを作った」
 私は首から下げる偽造IDカードをレイターに渡した。
「個別重力制御に近いものができたから、これを使えばガーディア社内のどこでも入れるはずだ」
「はず?」
 レイターの眉がピクリと反応した。

「理論上の間違いはない」
「理論上、ってラールシータは重力制御の情報を公開してねぇじゃんかよ。あんたがいくら天才だっつっても、テストしてから渡せよ」
「お前にテストしてもらいたいんだ。失敗した場合は十Gの感想を聞かせて欲しい」
「は?」
「冗談だ」

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「ほんっと嫌な性格してやがる」

「もう一つ言っておくことがある」
 私は家に届いた請求書を取り出してレイターに突きつけた。
「お前の個人的な請求書を家に送るなと言っただろう。私が気づかなければ父上が誤って支払うところだった」
「ちっ、これがお届け物かよ」
 あいつは口をとがらして舌打ちをした。父上が支払うことを見越していたな。
「しょうがねぇじゃん。住民登録の住所にしか請求書送れねぇって言われたんだから」
 普段フェニックス号で暮らし、定住先のないレイターの住民登録は我が家になっている。
「そう言われたら連絡を必ず入れろ。私でも父上でもいいから」
「めんどくせぇなぁ、あんたほんとケチだよな」
 どっちがだ、という言葉を私は飲み込んだ。

* *

 ティリーがリビングで資料を整理しているとガガガと言う音とともにコーヒーのいい香りがしてきた。
 マザーがコーヒー豆を挽いていた。机の上を見るとカップが三つ用意されている。

 その時、リビングの隣にあるレイターの部屋のドアが開き、中から二人が出てきた。
「コーヒー、一杯五百リルでどうだい」
 レイターがまたせこいことを言っている。お客の男性はレイターのくだらない話を慣れた様子で聞き流していた。

 レイターが男性にわたしを紹介した。
「こちら、ティリー・マイルドさん。ハイスクールの卒業旅行中」
「違います。クロノス社の営業担当です」

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 初対面の人に変な紹介しないで欲しい。

「初めまして、私はアーサー・トライムスです」
 男性は静かに笑顔を見せた。

 その名前に聞き覚えがある。
 品があって、レイターと友だちという雰囲気ではない。
「どういうお知り合いなんですか?」
「下宿屋の大家の息子」
 レイターの答えをアーサーさんは否定しなかった。
 気になる。この人に会ったことがある。どこでだっただろう。

 レイターがアーサーさんを指差して言った。
「こいつはさ、プロの殺し屋なんだ」     (10)へ続く

ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」