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銀河フェニックス物語<恋愛編> 第四話(2) お出かけは教習船で

 月の御屋敷には裏将軍の愛機『突風教習船』が置かれていた。
銀河フェニックス物語 総目次
<恋愛編>お出かけは教習船で (1
<恋愛編>のマガジン

「俺、ハイスクール中退して『風の設計士団』で飯炊きのバイトやってただろ、そん時に老師のじいさんがこの船を見つけてきてくれたんだ」
 老師というのは伝説の設計士だ。
「それは、老師に操縦を教えてもらったということ?」

老師にやり逆

 と言いながら、自分でおかしいと思った。
 レイターは十四歳ですでに戦闘機乗りだったのだ。教習船で手取り足取り教わる必要がない。

 わたしの問いにレイターが口をにごした。
「あんましティリーさんに聞かせたくねぇけど、この船だったら、誰が操縦してるかわかんねぇだろ」

頭に手ネクタイなしニコ大

 そうか、当時のレイターは任務用の仮免許しか持っていなかった
「無免許を隠すためってことね」
 わたしたちアンタレス人は順法意識が高い。無免許操縦という発想自体がない。

 レイターとわたしは生きてきた世界と違いすぎて、価値観が全く異なっている。私は深く息を吐いた。
 同じである必要はない。許容できるかどうかだ。
 彼のやっていることは違法で正しくない。けれど、誰にも迷惑をかけていない。

「ま、そのまま、じいさんがいなくなったんで、もらったんだ」
 突風教習船の実物を見るのは初めてだ。ボディがよく磨かれている。
 レイターがドアを開けた。
「もう、俺は操縦席には座れねぇんだよな」
 操縦席の座席が随分小さい。
「これ、子供用シート?」
「んにゃ、リゲル星人の船から付け替えたんだ」
 リゲル星人は小柄だ。わたしに、ちょうど良さげなサイズ。

「座ってみていい?」
「ああ」

 使い込まれたシート。十七歳のレイターがここに座っていたと思うと不思議な感じがする。

15ハイスクール横顔前目真面目

 この船で『裏将軍』として飛び回っていたのだ。わたしが知らないレイターの世界。操縦桿に触れると胸がトクンと音を立てた。

 レイターは隣の助手席、というか教官席に座った。教官席のシートは普通の大人用サイズだ。教官席にも操縦パネルが設置されている。
 宇宙船教習所で教官には随分叱られた。宇宙船メーカーに就職が決まったというのに免許を取るのに苦労した。

 実技試験に受からず両親に頭を下げて追加の料金を払ってもらったことを思い出す。あの頃、故郷のアンタレスを出て行きたい、というわたしに、父はいい顔をしなかった。

ティリー父ゆるシャツむ

 ちょっぴり苦味に包まれる。 

「これ、今でも動くの?」
「もちろん」
「操縦してみていい?」
 このやや狭い座席は操縦が下手なわたしでも扱いやすそうだ。

 免許取り立ての頃よりは、飛ばせるようになっている。ガレガレさんの船なら、仕事でお客様を乗せることだってできるのだ。 

「うーん。いいけど、俺用のセッティングなんだよな」
 レイターは渋い顔をした。裏将軍用にシビアに合わせてあるということだ。
「それは無理ね」
「ちょっと、待ってな」
 そう言うとレイターはいきなり教官席のコントロールパネルをはずしにかかった。

「何してるの?」

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 パネルの裏側の配線を付け替えているようだ。
「ふむ。これでいっちょ、やってみるか。ティリーさん、シートベルトつけてエンジンかけてみな。

「こ、こうかしら」
 キーをセットしてスタートボタンを押す。

 ブゥワンンン
「わっ」
 いきなり大きなエンジン音が響いたので驚いた。

「垂直離陸はできるかい?」
「教習所でやったことがあるわ。確か、こうして……」
 操縦棹を引っ張った。
「きゃあ」
 いきなり船が急上昇した。

 加速がすごくて制御できない。月の御屋敷の上空で機体が不安定に揺れている。
 これじゃ、防衛システムに撃ち落されてしまう。
(3)へ続く

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<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」