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銀河フェニックス物語<少年編> 第七話(2) 初恋は夢とともに

隊員が集まっている食堂で、レイターがアーサーに女性の好みを聞いた。
銀河フェニックス物語 総目次
第七話「初恋は夢とともに」 (1
<少年編>のマガジン

 部屋へ戻るとレイターが僕にたずねた。
「なあ、あんた女に興味ねぇの?」

12正面 口丸

「そんなことはない。尊敬できる人物であれば」
「へぇ、面白れぇ」
 馬鹿にされたような気がして少しむっとした。さっき答えなかったのは正解だったと思った瞬間、彼は意外なことを口にした。

「ジュリエッタと同じことを言う」
 ジュリエッタ・ローズのことか。

「尊敬できるような男になったら、ちゃんと俺と恋愛してくれるって言ったんだ」

 僕は気になっていたことを確認した。
「君は秘密クラブに出入りしていたのかい?」

少年やや口逆

「ああ、姐さんたちにはベッドでかわいがってもらってたぜ。俺の手は柔らかくて気持ちいいらしい。船の操縦と同じくらい繊細に扱わねぇと悦んでもらえねぇからな」
 レイターがニヤリと笑った。僕は自分が軽い羨望を感じたことに驚いた。

「ジュリエッタ・ローズともそこで知り合ったわけか?」
「俺の初めての女なんだ。あんたも、ジュリエッタに興味あんの?」
「彼女の動向は政治をも動かす」
「流石、ハイクラスの坊ちゃんは言うことが違うな。そっか、あんたは金もあるし、ジュリエッタの相手としてダグが許すかも知れねぇな」
「そんなつもりで聞いた訳じゃない」

 冷静に反応したつもりだが、声が微妙に裏返った。

「あんたも知ってる通り、ジュリエッタはダグの商品で、正真正銘『銀河一』の女さ」

ジュリエッタ横顔前目

「銀河一の女性、という表現はよくわからないな。あいまいで主観的な基準じゃないか」
 レイターは少し考えてから、饒舌にしゃべり始めた。
「……そうだな。銀河一稼ぐ女って言えばいいのかな。それだけ金を払ってでも手に入れたい、いい女なんだよ。楽園で過ごしてるようで、いつまでも一緒にいたい、って思わせる。麻薬みたいなんだ。ジュリエッタは隠れた努力家でさ、銀河一になりたかったら力を尽くしなさい、ってのが口癖だった。俺が『銀河一の操縦士』になったら尊敬してくれるっつってたけど、今頃、俺のこと死んだと思ってるんだろうな……俺の後を追わなきゃいいけど」

 レイターの後を追う? ジュリエッタ・ローズが? 
 ほかの隊員たちが聞いたら面白い冗談だと大笑いするところだ。当のレイターは遠い目をして宇宙空間を見つめながらつぶやいた。

「ジュリエッタは言ってた。恋の始まりに理由はねぇ。恋の終わりに理由はあるってな」

ハイスクール6レイターチェック前目

 妙に大人びた表情だった。
 レイターにとってジュリエッタ・ローズが銀河一の女性だということはよく伝わってきた。

「おいおい、レイター大変だぞ。これ見てみろ」
 いつもの食後の休み時間、隊員の一人がレイターにニュースタブレットを見せた。
「えっ……ジュリエッタが!」
 記事を見たレイターは文字通り凍りついた。

「おい、どうした?」
 人が集まってきた。僕もそっと紛れて近づいた。

 レイターが食い入るように読んでいる新聞に、小さな記事が載っていた。
『ジュリエッタ・ローズ自殺か?』
 ジュリエッタの遺体が鍵のかかった自宅の寝室で発見された。睡眠薬の飲み過ぎが原因と見られる。遺書はなく警察は事故と自殺の両面で捜査している。

 僕は驚いた。レイターの後を追ったというわけじゃないだろうが……

「ジュリエッタ・ローズは実在してのか」
 隊員たちがびっくりしていた。
「殺されたのか?」
「いや、事件性はなさそうだぞ」

 レイターの様子がおかしい。
 身体が硬直し、大きな目から涙がぼろぼろと零れ落ちている。ショックを受けているのは誰の目にも明らかだ。

「おいおい、大丈夫か?」
「そんなに落ち込むなよ。元々、夢だぜ」
「現実にはもっといい女性がいっぱいいるぞ」
 集まった隊員がなぐさめの声をかける。

 みんなは知らない。レイターにとってジュリエッタは単なるあこがれではなく実体を伴った恋愛対象者だったことを。

 その時、
「おい、レイター、洗い物手伝ってくれ」

ザブリート@叫ぶ2逆

 料理長のザブリートさんの声が聞こえた。
「あ、ああ」
 レイターはふらりと立ち上がるとそのまま厨房へと入っていった。   

「大丈夫かあいつ。本気で憧れてたんだな」
「まだ子供だからな、本物の恋をこれから知るだろうさ」
 隊員たちの気遣う声を聞きながら、僕は食堂を出た。 

 レイターは見た目が幼いから恋愛とは無縁に見える。だが、実は精神的にはかなり早熟だ。早くに親を亡くし、マフィアと関係を持ったことが影響しているのだろう。   (3)へ続く

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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」