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銀河フェニックス物語<少年編> 一に練習、二に訓練 (1)

銀河フェニックス物語 総目次
<少年編>マガジン

 戦艦アレクサンドリア号、通称アレックの船。
 銀河連邦軍のどの艦隊にも所属しないこの船は、要請があれば前線のどこへでも出かけていく。いわゆる遊軍。お呼びがかからない時には、ゆるゆると領空内をパトロールしていた。


「逃げるな、アーサー。俺が相手だ」

12レイター小@Tシャツむ

 またか。僕はうんざりした。
 レイターは格闘技の訓練にも顔を出した。食事係のアルバイトである彼が訓練に参加する必要はないのに。

 アレクサンドリア号の後部に訓練場はある。
 その日は、地上作戦を想定した訓練だった。
 白兵戦部隊班長のバルダン軍曹は、大声で騒ぐレイターを止めようともしない。

 レイターと初めて遭遇した時、僕が彼に蹴りを入れたことを、彼は今も根に持っている。隙あらば倒そうと狙っている。

 今朝も、起き掛けに二段ベッドの上から飛びかかってきた。
「うぉりゃあ」

 将軍家の僕は、子供の頃から戦闘格闘技を続けている。
 軽く読み切ってかわした。

少年横顔後ろ目怒り@

 士官学校でも実技の成績トップだった僕が、素人に負ける訳がない。ましてや三十センチも背の低い同年代の子供になど。

 ねばり強いと言えば聞こえがいいが、とにかく彼はしつこいのだ。
 レイターに絡まれるたびに、殴り飛ばしたい気持ちを理性で抑える。身に着けた武術を、個人の感情に任せて使用してはならない。

 他人に対して鬱陶しい、という感情を生まれて初めて抱いた。
 

 訓練の場だと言うのに、バルダン軍曹は面白がっている。

 僕はレイターと一対一で素手で戦うことになった。
「トライムス少尉、大怪我させん程度にな」

バルダン軍前目にやり逆

 多少の怪我は許すと言う意味だ。
 戦闘格闘技の訓練だ、蹴ろうが殴ろうが投げようが自由だ。遠慮をする必要はない。ここで力の差をはっきりさせておきたい。


 レイターと向かい合った。
 他の隊員たちは遠巻きに僕たちを見守っている。
 きょうの床材は土で固くない。投げ飛ばしても怪我はしないだろう。風が吹くと砂埃が舞い上がる。

「いつでもどうぞ」
 僕は構えた。

 レイターはじっと僕を見たまま動こうとしない。「逃げるな」と言ったのは一体誰だったか。こちらから攻めるか。

12戦闘

 その時、僕は気がついた。
 彼が僕の攻撃を待っている事に。

 喧嘩の場数を踏んでいるな。リーチの違いをどうカバーするかを考え、落ち着いて僕の隙を探っている。
 じゃあ、乗ってやろう。

 僕はわざと隙を作りながら、レイターに殴りかかった。
 思った通りだ、彼は低い体勢で僕の隙を狙ってきた。
 想定通りにレイターの腕を掴む。

 そのまま投げ飛ばそうとした時だった。

「わっ」
 思わず僕は目をつぶって声を上げた。

 レイターは僕の顔面に砂を投げつけた。片方の目に砂が入った。手の力が一瞬緩んだ隙にレイターが逃げる。
 油断した、というか卑怯なやり口。そのままレイターは飛び上がると僕の髪を後ろから力いっぱい引っ張った。
 こんな攻撃は受けた事がない。

 振り払おうとする僕の手のひらに激痛が走る。レイターが噛み付いた。出血する。
 力で引きはがす。
 今度は顎を狙った頭突き。想定外のジャンプ力だ。

 僕のリーチを活かさせないように飛び込んでくる。接近戦だ。
 身体が近すぎて突きや蹴りが出せない。

 他の隊員たちが、子どもの喧嘩だと笑っている。
 笑い事ではない。士官学校の訓練でも感じたことの無い鋭い気配。

 「真剣」という二文字が頭をよぎる。
 少しでも気を抜いたら、切られて死ぬ。

 動きを封じ込めたいのに、思った以上に素早い。片目が見えなくて遠近感が狂っている。 

 危ない!
 短い間合いからレイターが蹴り込んできた。   (2)へ続く

<出会い編>第一話「永世中立星の叛乱」→物語のスタート版
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ティリー「サポートしていただけたらうれしいです」 レイター「船を維持するにゃ、カネがかかるんだよな」 ティリー「フェニックス号のためじゃないです。この世界を維持するためです」 レイター「なんか、すげぇな……」