見出し画像

耳鳴り

おはよう、この街は静まることを知らない。
駅員の警笛が鳴り止んでも、
コンビニ以外の明かりが消えても、
派手にさめざめしく夜を奏で続ける。

少女は泣いているし、虫に寝床なんてない。
取り残される僕らは夜明けを待つだけだった。
雨脚と喧騒が強まって、頭痛を強く感じるような
夜だった記憶が薄らとだけ残る。

あんなに嫌がってたのに
僕らはすっかりだらしない大人になっていた。
曖昧な言葉で埋まって眠るよりも、
この一時に潰されるこんな夜が愛おしい。

疑って憎んで、嫌悪感を抱いて、騙されて、
喜んで悲しんで、貶しあって、そんな夜。
僕らはずっとこんなもんだね。
あの頃の思い出がいまはなんだかくすんで見えない。

まだ、ずっとこの先もダメ人間絶好調の真骨頂。
季節が寂しさをくれるのも気づかずに、
全部笑い飛ばして、全部忘れて、お金だけない。
化け猫の背中を撫でては、別れを恐れる。

別れを知らないから、再会を恐れて、
不憫さも、不遇も、愛せない。愛さない。
僕の日常に名前を付けるな。
誰にも分からないから日常が美しいんだ。

単純で、意外性に欠けた、退屈なコメディを
今は続けて、温かみが出て愛せるまで
偏屈なあなたと、不憫なあなたと、秀才なあなた
みんなに囲まれて歩んでいけと決めつけてくれ。

お前ら、早くフライパンで僕をぶっ叩いて、
ロードローラーでペラペラにしてくれ!
君らが笑ってくれるならこの身もくれてやる!
笑い泣いてくれるまでは、悲し泣きしてていい!

悲しみも嬉しさも苦労も、欠片で作った瓶に入れて、
溢れ出る感情だけをスープに混ぜればいい。
いつかまたその隠し味を懐かしんで泣けばいい。

分からないことだらけの毎日を愛していたくて、
またもう少しだけ先を目指して、
重たい腰を上げて、歩き始めることにした。

いいなと思ったら応援しよう!