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20230307

 勃起したおれのペニスを満足そうに眺める女。顎に指を当て、フッと息を吐くと、タイトなスカートの腰つきを振りながら部屋を出て行く。扉を閉める時に向いた半身の、乳首のピアスが光って見えた。ペニスをしまう。診断のように毎朝行われる。
 窓から隣家の屋根をつたって、屋上に出る。雑に穿たれた板の迷路を抜けると、灰皿とキャンピングチェア。煙草に火を着ける。吐いた煙が雲と混ざる。悲鳴が聞こえる。女の子を助ける。金髪のポニーテールの、大学生くらいだろうか。スポーツウェアが半ばはだけている。そうだ大学に行かねば。課題の提出期限が迫っている。

 校内に入ると、顔の歪んだ団子頭の太った同級の女が、何か呪詛めいた言葉を吐きながら付いてくる(失敗ともとれない取り返しの付いたことを、失敗したね、と。鞄から落ちたゴミを数メートル歩いてから気が付いて、拾いに戻ったが、ポイ捨てだ、と延々と言ってくる感じ)。チラッと、捻れた各パーツが中央に寄った顔面を見て、視線を歩く先に戻す。
 口の空いた体育倉庫から赤茶けてサビだらけの人影のシルエットが二人、出入りしている。ここで絵を描いた時に画材一式を置きっぱなしにしていた旨を伝えると、傍らのロッカーを指差す。開けると、絵の具のチューブと筆と錆びた鉄のクズが混ざって床に散らばる。

 教室の、自分が描いた絵を立ててある棚を触っていると、女の子が、絵、描けたんですね、と話しかけてくる。受験やら授業やらで日に何時間も一応描いてたからなあと答えながら、金髪のポニーテールとスポーツウェアが目に入って、あんたどっかで見たな、と口をつく。今朝はヒーローみたいでしたね、とポニーテールが言う。

 お前がヒーロー?と教室中に響き渡る素っ頓狂な声がする。
 ドカドカと近寄って来て、お前なんぞが〜と鼓膜に痛みを覚える声量でまくし立てている。相槌も打たず黙っていると、側を離れて教室から出て行く。酔っ払っているのだろう。欲しい刺激が得られないと感じて他に移って行った様子。隣の教室でそいつがまたおれを蔑する声が聞こえ、同調して笑っているのはどうやらおれの恋人


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