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進撃の巨人と二つの壁

*以下進撃の巨人のネタバレを含みます。

今更ながら、アニメ版の進撃の巨人を見終わりました。
(ちなみに推しは初期からずっとアルミンです。)

ストーリーの考察などは、僕なんかよりもっと詳しい人が説明してくれていると思うので、僕が読んだ小説の中でなんとなく進撃の巨人と関連しているんじゃないかと思う小説をご紹介します。

それは安部公房の「壁」という小説です。
この作品は三部作になっているのですが、その第一部「S・カルマ氏の犯罪」と進撃の巨人を合わせて考察していこうと思います。

1.「S・カルマ氏の犯罪」ってどんな話?

めちゃくちゃざっくりと説明すると、主人公の名前はタイトル通り「S・カルマ」と言います。このカルマはある日自分の名前が思い出せなくなり、自分が働いている会社に出勤すると自分そっくりな「カルマ」と出会います。(「」付きのカルマをもう1人のカルマとします。)「カルマ」は俺こそが本物のカルマだと言い張り、周りの人間も「カルマ」こそが本物の人間だと信じて疑っていない様子です。たまらずカルマは逃げ出し、自分の名前、存在を取り戻すために放浪を始める、、、といったストーリーになってます。

2.カルマに起こった変化

カルマは名前を無くしているので、周りの人間から存在を否定されます。そんな中でカルマは無機物との対話が出来るようになります。例えば自分が着ているシャツとかネクタイとかです。そして対話を続ける中で、その無機物たちはしきりに「革命」という言葉を口にします。
「俺たちは人間に従うために生まれてきたわけではない、俺たちにも自由がある。」という旨の内容があるのですが、なんとなく進撃の巨人っぽくありませんか?

3.有機物?無機物?

言うまでもないですが、進撃の巨人に出てくる、会話できるものは人です。
S・カルマ氏の犯罪の中でも、もちろん人との会話はあるのですが、作品全体を通して孤独な雰囲気が流れており先に触れた無機物との会話が印象に残ります。
そんな孤独なカルマは、最終的に映画の中に吸い込まれていってしまいます。
そこで見た景色は、ただ何もない、果てしなく続く砂漠。
まるで地鳴らしの後のような景色だと思います。あるいは道でしょうか。
そこでカルマは途方に暮れ、自分自身が「壁」となり物語は終わります。

4.二つの壁

進撃の巨人では、壁は巨人から人々を守るためにあります。
ですが壁だと思っていた物の中には巨人が眠っており、実は巨人から守られていたといったシーンがあったと思います。
壁から巨人の目だけ見えているシーンは印象的ですよね。
そして、壁の中から巨人の目が見えると言うことは、ずっと壁の中を見ていたと言うことになります。
仮にこの目のことを「内の目」とします。
対するカルマは自分自身が壁となり、逃げ出した先で壁になっていることから視線は「外」にあるように思えます。
逆にこの目のことを「外の目」とします。

・S・カルマ氏の犯罪における壁
僕が思うにこちらの壁は、カルマ自身が壁になっていることから、外にある未知の世界への視線、それに対して中にある逃げ出してきた現実の世界への視線、内外の目どちらも持っているように思います。

・進撃の巨人における壁
こちらも同じように、内外の目どちらもあるように思えます。
なぜかというとエレンはカルマと同じように、自分自身が壁となり、地鳴らしを発動することで進撃し続けているように思えたからです。
こちらが外の目。
そしてもちろん壁に囲まれたパラディ島の目線も持っていると思います。
そしてこちらが内の目。
ここで二作品での壁の大きな違いは、運動性にあるのではないでしょうか。

5.人との繋がりと孤独

カルマは終始孤独なままな印象であるのに対して、進撃の巨人ではそうではありません。皆さんも知っての通り、むしろ人との繋がりをとても大事にしていると思います。僕はエレンの「みんなに長生きして欲しい」というセリフと、終盤にアルミンやジーク達が、何気ない幸せが、自分たちの生きている意味だと思い知るシーンがとても印象に残っています。
人生に意味は無いとよく言うけれど、僕は進撃の巨人を見るまではカルマが見た外の目の世界とはどういうものだったんだろうとか、救いようの無いものなんじゃないかとか色々考えたのですが、例えばジークにとってはキャッチボールだったように、何気ない幸せに気づくこと、それこそが大事なんだと再確認出来たように思えます。

6.最後に

人は分からないものに対して恐怖を覚えますが、外の目の先の世界ばかりを見ていると、どうしても恐怖に支配されるように思えます。
そこで一度立ち止まり、自分自身の足元のある小さな幸せに気づき、それでも道が分からないままに突き進んでいくしかない。そんな当たり前のことかもしれませんが、進撃の巨人という作品を通して、考えることができました。

終始拙い文章、表現でしたが最後までお読みいただきありがとうございました。
またお会いできると、嬉しいです。

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