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とても年下の「高校の後輩」が、突然家を訪ねてきた話。
午後に、玄関のチャイムが鳴った。
何人かの知人の顔か、宅配便か、と思いながら階段を降りて、引き戸の玄関を開けたら、何メートルか先の小さな門の先に、知らないマスクの女性がいた。
門をはさんだ会話
はい。
なんだか分からないけれど、声をかけて、近づいていったら、もう一人女性がいた。
どちらも知らない人だった。
「すみません。
〇〇高校の、すごく後輩にあたる者ですけど、調べて来てしまいました」。
何の用事かは分からなかったのだけど、「〇〇高校」は確かに私も卒業していた。久しぶりに聞いた固有名詞。
何本かの鉄の棒が縦に並んでいる、小さい門を開けようと思ったのだけど、自分がノーマスクだったから、一度、玄関まで戻って、マスクをつけて、また前へ進み、門を開ける。
高校の何期
なんでしょうか?
すると、どこからか、私が知らない男性の写真を出してきて、次の都議選に立候補するらしく、その人のプロフィールの話を始めた。要するに、選挙活動なのは、分かった。
それで、どのような団体に所属しているのか、といったことは、自然に見当がついたものの、せっかくだから、少しだけ聞こうと思った。
どうやって、調べたんですか?
と尋ねようとしたときに、そういえば、何年か前にも高校の名簿が発行されていて、そこに、名前や住所などを書いて送ったから、それを見て来たのは分かったので、その質問は、そのまま飲み込み、違うことを聞いた。
何期なんですか?
「〇〇期です」。
それが本当かどうかも分からなかったけれど、答えはすぐに返ってきたし、それが本当だとしたら、一回りくらい下になるから、それは、確かに「すごく後輩」という表現になるはずだった。年齢的には、もう少し若く見えた。
それでも、当たり前だけど、その女性は、立派な大人で、自分がすごく歳をとったような気持ちになり、それは事実なのだけど、そんな言葉をかわしながら、久しぶりの高校の名前を聞いたせいか、通っていた高校にまつわるイメージが浮かんでいた。
浮かぶイメージ
もう何十年も行っていないけれど、たまに、黒のプレザーの制服を着て、黒を基調とした校章をつけた女子生徒を、実家に行くときに駅で見かけることはあり、まだ変わっていないんだ、というような気持ち。
バス通学をして、バス停を降りてから、坂道を上り、小高い丘の上に、やや孤立感のある校舎があったこと。
グランドの土が硬かったこと。
そんなあれこれを思い出していたが、それは、数十秒のことだった、と思う。
話を聞いて、だけど、選挙に関しては、期待通りに投票できないと思いますが、という話を返したはずだったのだけど、それでも、相手の女性は話題をつないだ。
「最近は、高校の時の同級生の方などに、会う機会はありますか?」
とっさに、10年くらい前、中年になってから、学校に通う機会があり、その時の1年先輩に、高校では、今日会った女性よりもさらに下の「後輩」にあたる人に会ったことを、伝えていた。
さらに、その人は女性だったのだけど、自分と同じようにサッカー部だったことなども、思い出し、それがすごいと思ったことなども、伝えたい気持ちにもなったが、選挙活動に来た人に、そこまで言ってはいけないような気がして、言葉を止めた。
名簿の仕事欄
その後に、その女性は、私の仕事についての話題を出した。
ここまで、一言もそのことに触れてなかったから、間違いなく、名簿を見たことがある人なのだろう。
さらには、その名簿の情報は少し古く、最新版の名簿には、2つの仕事を書いていたはずだった。
どちらにしても、バリバリと働いているわけではないので、なんとなく、後ろめたい気持ちにもなり、モニョモニョした口調で、「今は、他の仕事が多くなっているので」と声も小さくなっていた。
ここまで3分も、たっていなかった。
缶のお茶
それでも、なんだか懐かしく、話していると、短い時間でも、その相手が本当に「後輩」かどうかも分からないけれど、ちょっとだけ時間が戻るような気持ちにはなれた。不思議だった。
もう話すこともないし、おそらくは、その人たちの期待にも応えらず申し訳ないのだけど、その日は、気温も高めで、まだ、あれこれと回るのだろうと思ったら、ちょっと待ってもらって、玄関から廊下を小走りし、家にある、もらっていたけれど、まだ飲んでいない缶のお茶を2つ持って、戻ってきた。
お茶が大丈夫かどうかを確かめて、渡したら、一応は、喜んでくれた。
二人が去った後、そういえば、5年くらい前に高校のクラス会をしたこと。その時に、幹事の手伝いをしたこと。名刺交換をしたら、何人かが、会社の役員、という肩書きがあって、自分の貧乏状態との差に愕然としたこと。それでも、さらに5年後にまたクラス会を開く予定だったこと。たぶん、今のコロナ禍では、延期だろうな、と思ったこと。最近、会いましたか?への答えが、いろいろと頭に浮かんでいた。
不思議な気持ち
普段、全く思い出さず、しかも、遠い昔のことなのに、少しの引っ掛かりが与えられるだけで、これだけ、すぐに、比較的、鮮やかに思い出すとは思わなかった。
それは、本当かどうかは分からないけれど、話している時は、同じ高校に通っていた人間として、会話をしていたから、それだけのイメージが湧いたのだと思う。
なんだか、不思議な気持ちだった。
さっきと変わらない、ただの平日の午後で、その出来事の話を、階段を上って、テレビのある部屋に戻り、待っていてくれていた妻に伝えた。
コロナ禍で人の流れを抑制しているような時期に、それだけ、遠い知り合いまで声をかけるのだから、もしかしたら、次の都議選は、その関係者にとっては苦しい戦いなのかも、とやけに、俗な話題にまでつながっていった。
そんなに政治的なことに詳しくないのに、具体的な人の動きに接すると、何かが刺激されるのかもしれなかった。
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