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ラジオの記憶①「不思議な球体」

 ラジオで、こんな話を聞いたことがある。

 彼氏が住んでいる鎌倉のアパートに行き、窓から外を見ていた。
 外には、緑が多く、山もその向こうに見える。
 ある時、その緑の木々の葉っぱの生い茂る向こう側、だけど、そんなにはるか遠くないところに、丸い物体が見える。それも、自然界には不自然なほど丸くて、堅そうで、あまりにも違和感があるものだった。
 なんだろう。
 その不思議な球体が、気になって、見るたびに、よく見ていたけど、分からなかった。
 ある時、その不思議な球体が何かが分かりたくて、少し遠い場所へ向かって、歩いて行った。
 近づいて、樹木の向こう側に行ったら、初めて何か分かった。
 それは、鎌倉の大仏の頭の髪の毛だった。
 あの丸くて、たくさん頭についている、そのひとつが、角度やいろいろなことが合致して、そのうちのひとつだけが、樹木の木々の間に見えて、それが不思議な球体に見えていたのが分かった。


 視聴者からの話として、それを、ラジオで聞いた時に、樹木の中に、大仏の螺髪が、角度や距離がぴったりと合って、ある地点からは、自然界には存在しないような、不思議な球体として見えたイメージが、かなり鮮やかに浮かんだ。それは、そんなにうまくいくことがあるんだろうか、という疑問もあったのだけど、それでも、日常と違う世界をつなぐような、非日常的な印象として、残り続けた。
 
 あれから、どれだけの時間がたったのか、よく分からなくなっている。どんなラジオ番組で聞いたのかも、もう記憶にない。
 鎌倉の大仏は、横須賀線沿線に住んでいたことがあって、何度も見てきたから、その頭のイメージまで、自分の中で、しっかりと残っていると思っていた。それもあって、この話を聞いた時から、時間がたつほど、もしかしたら、ピカピカの度合いが増して、不思議な真ん丸が宙に浮いている像として記憶に残り続けた。


 今回、この話を書こうと思って、確認のため、鎌倉の大仏の高徳院のホームページを初めて拝見した。
 とても整えられたデザインで写真もきれいで、大仏の姿もよくわかる。
 頭の螺髪といわれる部分が、直径で24センチもあること。その数が、656個もあることを初めて知った。

 ただ、そこにある大仏の写真を見ていると、その螺髪が思ったほど真ん丸の球体ではないこと。頭髪を表現しているのだから、巻いていること。何百年という長い歴史の中で、当然だけど、ぴかぴかとはいえなくなっていること。
 自分が覚えていて、どこか大事にしていたエピソード自体が、フィクションかもしれないと思えてきた。さらには、その「不思議な球体」の可能性があるとすれば、大仏の眉間にある白毫の方ではないか、と思ったりもした。

 記憶があいまいなのは、分かっていたはずだった。そして、場合によっては、少しでも調べると、微妙なほころびが出てくるとは思っていたけど、こんなに記憶の中の映像と違っているとは思わなかった。自分が好ましいと思う方向に、気がつかないうちに、その記憶を、育ててしまっていたのかもしれない。

 だからといって、この話の真偽を確かめるのは難しいし、この話が本当だと私が信じていることで、誰かが被害を受けたり、傷ついたりする可能性も低いと思うし、だから、こうして広く伝えても大丈夫だとは思う。(もし、そういう方が、いらっしゃったら、ごめんなさい)。

 だけど、今回、確認するまでの方が、その「不思議な球体」は、もっと不思議だった。


 鎌倉の大仏は、たとえば遠足みたいな時も行ったし、友達とも、女性とも行ったと思うし、母親が入院してから、連れて行ったこともあった。

 行くたびに、空と山を背景にした大仏様は、いつも静かで、思ったより大きくて、必ず見上げていたことを思い出す。それは、たぶん間違いの少ない記憶だとは思う。



 2020年5月現在の神奈川県 鎌倉の高徳院(鎌倉大仏殿)は、拝観中止が延長され、5月末まで、それが続く、ということが、ホームページで伝えられている。



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「雑草の庭」をつくった話。

雪の記憶

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