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ロケットを、鼻につめた日

 まだ小学校に入る前、親に「グリコ」を買ってもらうのが楽しみだった。

 今は、お菓子売り場でも、あまり目にしなくなったのだけど、大阪の戎橋が映像で映ると、「グリコ」の大きい看板があり、あの男性が手をあげているパッケージが、まさに「グリコ」だった。

 そして、中にはキャラメルのようで、キャラメルでないお菓子が入っているのだけど、子どもの私にとっては、その上部の箱にある、おまけが欲しかったのだと思う。

グリコのおまけ

 お菓子とおまけは、別々の箱になっていて、上の部分の箱を開けると、中におまけが入っている。昔はプラスチックが「未来」の素材のように思われていて、ある意味で「偉かった」ので、そのプラスチック製の小さいおまけが入っていることが多かった。

 それでも、そのおまけが、どんなものだったのかは具体的には、よく覚えていないのだけど、家電やクルマが多かったように思う。

 時代は、まだ高度経済成長という、経済も含めて「右肩上がり」が続いていて、子供の頃は、そのおまけの意味合いが、よく分かっていないのだけど、おまけも時代を反映している、ということだったと思う。

 だからなのか、現在の「グリコ」は、おまけは木製になっているという。

おまけのロケット 

 子供の時の自分が、何を考えていたのかを、すでによく覚えていないし、覚えていても、まだ言葉に出来にくいようなことも考えていたような気がするが、親に「グリコ」を買ってもらい、それからおまけの箱を開けて、中を見た時にも、本人なりに「当たり外れ」があったはずなのだけど、その基準もよく覚えていない。

 あるとき、そのおまけがロケットだった。
 アポロ11号が、人類として初めて月に着陸する前か、あとかも覚えていないが、実際には見たことがなくても、ロケットというのは、男の子にとっては、すでにおなじみの乗り物のひとつだった。
 
 そして、同じおまけでロケットであっても、色々なものがあって、中には3段ロケットのようになっていて、三つに分かれたり、またくっつけたりできるロケットもあったはずだけど、その時に出てきたのは、そんなロケットではなく、分解も出来ないような一体化したスタイルだったと思う。

ロケットを鼻につめる

 そこからは、何を思ったのか自分でも分からないが、おまけのロケットを、自分の鼻の穴に入れてみた。
 思ったよりスムーズに入ったはずだった。
 そのことに微妙に焦ったせいか、取ろうとして、指を入れたら、さらに奥に行ってしまった。
 また指を入れても、もう取れなくなった。
 あ、と思って、だけど、焦りとかをあまり顔に出す方ではなく、部屋の中を歩いていって、母親に、そのことを淡々と告げた。
 
 たぶん、母親の方が焦っていたのだと思う。
 ピンセットか何かを使って、鼻の穴の奥にあるロケットを取ろうとしてくれた。 
 さらに奥に、グッと行くのが分かった。
 いつの間にか、もう取れなくなっていた。

 声を出したり、ましてや泣くようなこともなく、そんなに反応はしなかったと思う。

 その時間に、父親が在宅していたのかどうかは定かでないのだけど、気がついたら、父親におぶわれて、小高い丘にある鉄筋の社宅が並ぶ場所から、まだ舗装されていない土がむき出しになった道路を下っていた。

背中で見た夕焼け

 父親は、少し急いでいたのか、やや小走りだったと思う。
 雨が降った名残りのせいか、土の道路に小さい溝が出来ている。

 父は、ちょっとジャンプするように、そこを超えた。
 私も、おぶわれた背中で、少し跳ねた。

 記憶の中では、夕方だったと思う。
 空は、だいだい色だった。

 もちろん自分の記憶だから、もしかしたら、事実は違うかもしれないが、それでも、父の背中に揺られながら見た空はきれいだったし、鼻につまったおまけのロケットの、かなり奥に行った感じも確かにあったし、もう取れないかもしれない、という微妙な不安もあったと思う。

 ただ、淡々としていて、泣いたりもしないから、もしかして、親から見たら、余計に心配だったかもしれないと、あとになって思うようにはなった。

無事だったロケット

 耳鼻科に着いた。
 鼻につまっている事情は、父が医師に伝えてくれたようだった。
 病院にある独特の、子どもにとっては大きいイスに座って、医師が近づいてきたら、痛みもなく、あっという前にロケットは、粘りのある液体に包まれて、そこにあった。

 何事もなく、無事に取れたから、やっぱりホッとはしていたと思うのだけど、そんなに喜ぶような子供でもなく、多分、きれいにしてくれたロケットを持って、父親と一緒に家に帰った。

 おそらく、一番、ホッとしたのは母だったと思う。
 それからも、「グリコ」は買ってもらっていたが、それ以降、おまけを鼻につめたりすることはなかったと記憶している。


心配な子ども

 もう随分と、時間がたった。
 父も亡くなり、母も亡くなった。

 自分には子供もいないから、どこまで理解しているか分からないけど、おとなしくしているな、と思っていた子どもが、急に、おまけのロケットを鼻につめた、と淡々と告げてきて、それを取ろうとして、余計に奥につめてしまった母親の気持ちや、それほど遠くないとはいっても、歩いて10分以上はかかる耳鼻科へ、おんぶして連れて行った父親の不安を考えると、なんだか申し訳ない気持ちにはなるし、感情がわかりにくい子供の将来は、もしかしたら、かなり心配だったのかもしれない、と思うことはあった。




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