テレビについて(61)『水曜日のダウンタウン』------「1度しか使えない方法」。
『水曜日のダウンタウン』は、こんなふうに私が書かなくても、いろいろな人が論じたりしているから、いまさら何かを書く必要もないと思う。
そして、これから書こうとすることも多くの人が話しているとも感じているが、それでも記事として残しておこうと思ったのは、かなり鮮やかな方法だったからだ。
『水曜日のダウンタウン』
放送が始まってから10年が経とうとしていて、その放送内容は「攻めている」と評価されてきて、それに全面的に同意はできないけれど、他のバラエティ番組を見ていて、オープニング映像も含めて、この「水曜日のダウンタウン」に憧れているのでは、と思うようなこともあるから、想像以上に、影響が大きいのだと思う。
それでもダウンタウンの松本人志に関する報道のあと、スポンサーが離れたり、松本人志が番組を降りることになったりして、もしかしたら、番組が終わるのかも、といった気持ちは視聴者の一人としてあったのだけど、様々な変化がありながらも、2024年4月の時点でも番組は続いていくようだ。
さらに、収録中に出演者が怪我をするなど、いろいろなことが番組にも起こっているのだけど、3月末の放送がかなり印象に残っている。
企画
それは、清春の新曲の歌詞を全て書き起こすまで、その場所を出られないという企画だったのだけど、清春のことは黒夢の時代から一応知っている程度で、その楽曲もその頃よく聞くヒット曲として知っていた。
その歌唱と声は独特だったけれど、あれから随分と時間が経ち、それでも現役として新曲を出していることに、熱心なファンでもないけれど、感慨に近い気持ちにもなった。
ただ、改めてその歌声を聴くと、一見、何を言っているのか分かりそうで、だけど、きちんと聞こうとすると分からなくなるという不思議な声だということに改めて驚くとともに、それに苦戦して、歌詞を読み解こうとする芸人がつい罵倒する姿を見て、共感とともに、少し笑ってしまった。
そして、歌っている本人の清春が登場し、そこまでの様子を見ていて、分かりにくくてすみません、といった話をしていたのも、その番組への興味をさらに広げてくれたように思う。
再放送
その企画自体も印象が深かったのだけど、その翌週の『水曜日のダウンタウン』も録画して見ていたら、最初は、何かを間違えたのかと思ったのは、先週見た清春の新曲の歌詞を書き起こす、と同じ内容だったからだ。
それは、妻と一緒に見たい企画だったし、その前週は他のドラマの方を優先していたから、ちょうどいいとも思っていた。内容が一緒だ、というようなことを妻に伝えたら、じゃあ、再放送だね、と言っていて、それほど違和感を抱いていなかった。
だけど、それまで『水曜日のダウンタウン』を熱心ではないとしても見てきた人間としては、そんなふうには思えず、何かあるんじゃないか。同じ内容と見せかけて、途中で内容が切り替わるのではないか、といった薄い緊張感はずっとあった。
ただ、その最後まで、全く一緒に思えた内容は続き、どうして?と思っていたら、テロップが入った。
それは、今年度分の番組予算が底をついたため、先週と同じ内容を放送させていただきました、という言葉だった。
ちょっとした怖さも感じていたので、そういう現実的な理由だったのかと思い、同時に、これは一度しか使えないけれど、もし、この予算が底をついたというのが本当だとすれば、それを逆手にとって、アイデアだけでなんとか乗り切った鮮やかさを感じていた。
しかも、先週と全く同じではなく、7か所だけ少し違う点があるので、それを見つけてくれた視聴者には、「先着順」でプレゼント、というおまけまでついていた。このプレゼントの正解者がどれくらいの速さで現れるのか、といったことも含めて、話題になるのだと思った。
実績
この「再放送」のような方法を、冒頭に告知することなく、別の番組が同じようにおこなったら、どうなったのだろうか?と想像する。
もしも、いわゆるゴールデンタイムであって、かなりの人数が見ているのであれば、「あれ、先週と一緒だ。でも再放送と言ってない」といった疑念が膨らみ、その上で、「放送事故ではないか」といった声も起こり、テレビ局に問い合わせや抗議で電話が殺到するような気がする。
この『水曜日のダウンタウン』、2024年3月20日放送分に、そうした苦情などがどれくらい寄せられたのか定かではないけれど、膨大であればそれ自体がニュースになるだろうから、あったとしても少数ではないだろうか。
それは、この番組を毎週見ていないとしても、何度か見ている視聴者であれば、私がそうだったように、本当にこのまま先週と同じ内容を放送するのか。何か起こるんじゃないか。そんなに素直に同じことを繰り返すわけがない。いや、逆に繰り返すのであれば、もしかしたら、2回だけではなく、来週も何も言わずに3回同じ放送をするかもしれない。それは、内容的には、すでに見たものであっても、その時の番組をリアルで視聴していたら、どこへ伝えたらいいか分からないとしても、ちょっとした自慢になるかもしれない。
そんなことを思えたのは、良し悪しはあるにしても、それまでも一筋縄では行かない内容が多かった、この番組の実績で、最後に、ネタバレがあるまで、ただの再放送だとは思えなかった。(確かに7つの間違い探しが仕込まれていたのだけど)
こうやって番組側が、特に何もするわけではなく、ただ、このほぼ再放送の理由を最後に持ってきただけで、見ている側は勝手にいろいろなことを想像し、少しドキドキした時間が過ごせたのは、なんだかすごいと思う。
そして、これは一度しか使えない方法なのは間違いないが、これまでに様々なこころみをしてきた番組だからこそ成立したやり方だとも思う。
大げさで突飛かもしれないけれど、観客の前にピアニストが現れ、ピアノの前に座って、ふたを開けて、演奏もしないでそこにいるというジョン・ケージの「4分33秒」とつながるような発想だとも思った。
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