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短編小説

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各1話を数分で読める、全3話の短編小説。「情動の月」は著者がはじめて書いた作品で、著者の人生観とリンクしている。
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短編小説「情動の月」③最終話

短編小説「情動の月」③最終話

第3話(最終話)

(第2話はこちら)

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
君は、
自分を認識する
名前を持たない。

君は、
自分の感情を表現する
言葉を持たない。

君は、
家族もいなければ、
友達もいない。

きっと生きる意味も持たない。

しかし、
君が生きていたことを
僕は見たんだ。

その美しさを見たんだ。

君は
最後の狼。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「金になるぞ」

父がそう言った。

父は

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短編小説「情動の月」②(全3話)

短編小説「情動の月」②(全3話)

第2話

(第1話はこちら)

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
君は死んだ。

君との友情は、
儚く残酷なものだったが、

今になって、
案外そうでもない気がしている。

君は、確かに生きていた。

僕たちは一度も話をすることも
なかったが、

友達だった。

確かに君は生きていたんだ。

君は最後の狼。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
夜中に目が覚めた。

用を足しなくなったが、
少し躊躇った。

というのは

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短編小説「情動の月」①(全3話)

短編小説「情動の月」①(全3話)

第1話

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
君は死んだ。

君との友情は、
儚く残酷なものだったが、

今になって、
案外そうでもない気がしている。

君は、確かに生きていた。

僕たちは一度も話をすることも
なかったが、

友達だった。

確かに君は生きていたんだ。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
君を初めて見かけたのは、
父さんに連れられて、

山に行った時だ。

君は遠くから、
ただこちらを見ていた。

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短編小説「追憶の緋色」(全3話)

短編小説「追憶の緋色」(全3話)

第1話

昨日があったのかも、
明日があるのかもわからない。

今見えているものだけが
ただリアルだった。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
この夏休み、
タケオの背はグッと伸びた。

まるで
この夏の太陽に育てられた
向日葵のように。

青年というには
まだ幼く、

少年というには
逞しさが見え始めた頃。

13歳になろうとしていた。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「お弁当忘れてるわよ!」

タケオの母フミ

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