大人になるまであのお城には入れないよ
逃げ出したかった
2時間に1本しかこない電車に揺られながら、未だに存在すると信じている運命の人との出会いを想像していた。
絶望が反射して輝く海の眩しさに目を細める。貴方は運命の人ではなかった。もし、この一方通行な愛が蒸発すれば、涙の雨でも降らせることが出来たのに!ただただ悲しい気持ちだけが積み重なる。優しくない。
無人駅のベンチに寝転がり、ぷかぷか浮かぶ雲を眺めること数時間、日が沈みかけていた。
赤と青って紫になるんだって、図工の時間で初めて知ったときの衝撃はもう思い出せなくて、どんどん黒に染まっていく空を引き留めることは出来なかった。
富んだ感性を持つことが良い事では無い。物事の本質的な洞察ができても、それは私のものにはならないから。貴方の気持ちを痛いくらいに理解することが出来ても、貴方は私のものにならない。
おはようもおやすみも初めても終わりも全部私がいい。よ。
貴方が人形選びをしている間、私はお利口にして待っていた。貴方に選んでもらうことが私の全て。ねえ、私達が交ざりあったらどんな色になる?きっと、できあがるのは、何色とも言い表せない酷薄な色。貴方が私を侵食するから、貴方色に染められてしまうだろうなー
もう貴方には、会えない。会わないが正解なのかも。でも今は、3ヶ月先まで空いていないメンクリのこととか、方向性の違いで解散したバンドのこととか、あの空の作り方のことを、話したい。私きっとこんなことを毎回書いている。
ねーわかった!弱いところはみせちゃだめなんだ。涙袋に繊細なきらきらラメを添えたら泣いているように見えちゃって、思わず大粒の涙が零れてきちゃって、地面に落ちた涙の跡が月光に照らされて際立ってしまうね、どうしよう
「そういえば、3月の鬱を誤魔化しちゅーな現実とぶつかり、しっかり死について考えている!ノリノリで15階のビルから飛び降りちゃいそー」
日付を跨いでもファストフード店はそれなりに人がいた。早く寝なきゃと知らない人を心配する私だって不健康だし、飲まなくてはいけない薬を忘れている。終電はとっくの前になくなって、もう戻れないとこまで来ちゃったんだと思い知らされる。
死にたいとは思わないけど、これ以上生き続けたくない。
夕方の茜さす時間、17時のチャイムが聞こえたら家に帰って、手洗いうがいをしなきゃ。音読カードは適当にサインをつけて、宿題は答えを写しつつ何問かはわざと間違える。ご飯もお風呂も済ませたら、オレンジ色の電気に包まれて眠りにつく。夜遅くに毛布の中でこっそり3DSをする時間が楽しかった。
「大人になるまであのお城には入れないよ」
と言われた場所に入れるようになった時、寂寥感に襲われた。選択肢が “受け入れる” ただそれだけ。セーブもロードもできないから、せめてもの思いで常夜灯をつけて、固く冷たいベッドに身を委ねた。
私、大切にされている実感がないとどこかに行ってしまうかもね?と言えるくらい強気になりたかった。もっと自分を大切にしてあげたかった。私のことは、私が一番よく分かっていて、私だけのもの。これって私が何回も言っていること?裏切られた分だけ客観視が上手になる。感性なんて言ってられないくらいには、全てを理解してしまった。こんなことより貴方がほしいのだけれども。
何曜日だっけ?たしか水曜日か、木曜日。小学校低学年の3時間目と4時間目は図工の授業だった。高校3年生の水曜3限は世界史で、4限が英語。教科内容よりも、哲学的思考が頭にまとわりついてくる。
幸福とは?聞こえない触れない見えないのに簡単に崩れていく感覚だけが分かるのは、なんでだろう?
本質観取を実践することには消極的なのに知的好奇心だけが恐ろしいほどに大きく膨らんでしまった。ころして、ください。おねがい。創造も表現もできない、これは、何?
空は、澄んだ水色。青の絵の具に白を少しずつ足していくと出来る色。綺麗だと感じているつもりなのに心に空いた穴は埋まらない。
幸せにならなくていい、生ぬるい地獄だって歩ける。あの日の雲はもう見えないけれど、貴方の体温を直に感じることができるなら、残酷な色でも受け入れる。
先生、これで正解ですか?
私は、逢魔時の海岸沿いで
ただ、じっくりゆっくりと
侵食される紺碧の行方を、
知りたかった、それだけ。
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