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映画館で観た『耳をすませば』『On Your Mark』、そして幸せのカテゴリー...

 混沌の21世紀の姿が、次第にはっきりしてきた今、日本の社会構造も大きくきしみ、ゆらぎ始めている。時代は確実に変革期に入り、昨日の常識や定説が急速に力を失いつつある。これまでの物的蓄積によって、若い人々がその波に直接さらされることは、まだ始まっていないとしても、その予兆だけは確実に届いている。
 こんな時代に我々はどんな映画を作ろうとするのだろう。
 生きるという本質に立ち帰ること。
 自分の出発点を確認すること。
 変転する流行は一段と加速するが、それに背をむけること。

映画『耳をすませば』パンフレットの冒頭より

『On Your Mark』はハードコアパンクだった

2023年2月、調布の映画館でジブリの『耳をすませば / On Your Mark』を上映するとの報を聞き急いでチケットを予約した。
『耳をすませば』については過去何度もTV画面では観てはいるが、1995年当時に映画館で観た記憶はないので今回の機会が初となる。そして2022年はチャゲアスにハマっていたので絶妙のタイミングで『On Your Mark』も見られるなんて、というビッグサプライズであった。

元々自分はキッズ時代は茨城のつくば/土浦エリアと、神奈川/東京の長津田/町田エリアを父親の仕事の都合か何かで何度か引越しを繰り返すという生活をしていたのだが、学生時代は京王線沿線の学校に通い、そして3LA発祥の地は調布であった。金曜ロードショーで『耳をすませば』が放送されるとなれば、聖蹟桜ヶ丘のロータリーなど聖地巡礼を何度もしたものである。京王線が生活の軸にある者にとって、あの映画は何か特別な記憶を呼び覚ますものでもあった。

だが、百聞は一見にしかず。
散々観てきたはずの『耳をすませば』を映画館で観た感想は自分が10代や20代にそれを観た感想とはまるで違うものだった。そして同時上映(こちらは前座みたいな感じで先に上映される)の『On Your Mark』もまた、岡田斗司夫の解説を視聴し完全に予習は完璧かと思われたが別物だった。

映画が始まるまえのしょうもないCMが散々ながれたあと本編開始。
『On Your Mark』の冒頭でアスカの「オォ〜〜〜ンヨォマァク…」の歌唱が聞こえた瞬間に身体が硬直するような緊張感が走った。
そしてチャゲアスの乗った飛行船的なやつが爆音と共に宗教施設みたいな塔に突っ込んでAメロが始まっていく。

何コレ、めちゃくちゃかっこいい….

映画館の巨大なスクリーンで実際に観てみると、この映像作品がしっかりと映画館サイズで視聴されることを前提に作り込まれているということをすぐに気付かされた。
岡田斗司夫の解説は確かに面白いのだけど、それらはあくまでロジック。映画館での没入感を演出する細部の表現は、ロジックを超越する映像の力はTVサイズやましてはスマホやPCのyoutubeのような画面サイズでは伝わらない。また、音質、音圧的な部分でも映画館の爆音(作品内での効果音は、時に原曲をかき消すほどのバランスでミックスされている)の中で聴いてみると全然違う。ジブリはストーリー性よりもその画の力で与えるインパクトの強さが常にある。

本当の作品の意味みたいなものを子供時代に理解できなくても、けれど不思議と印象に残るシーン、画を記憶に刻みつけるようなインパクト。

いまの時代の芸術と呼ばれているものはほとんどがスマホ基準になっている、そのことに慣れすぎていた。
思えば音楽だって、サブスクからスマホやPC/イヤホンで聴くようなレベルの音量感が標準になってきている。このサイズで音を聞ける場所、それに一番近しい場所はライブハウスである。そこでは衝撃的な生演奏が繰り広げられているんだけど、俺たちはもっともっと考えなければいけないんじゃないか?
そんな感想を持った。

とにかく『On Your Mark』は数秒単位で印象的な画をいくつも畳み掛けてくるショートチューン連発系のハードコアパンク作品のような衝撃があった。これを映画館で観れたのは幸せだった。
なんなんだこれは、という衝撃。その画の力。それが何より大事。
もちろん音楽なら、音である。


多くの激情ハードコアと同じように、90年代の多様性のひとつとして『耳をすませば』もまた存在する

続いて『耳をすませば』。
既に『On Your Mark』の数分で完全に満足していたが、『耳をすませば』もこの映画館の画面サイズ、音量感で体験できるならまた違うかもしれない。そう思いながら続きを観ていた。映画館に到着して上映前に既にパンフレットを買っていて、内容はあとで読もうと思っていたのだが、その冒頭の宮崎駿のステートメントを読んだら「この映画もただ事ではないかもしれない」と感じた。『耳をすませば』とは10代の頃に初めて観た時は、観るのも恥ずかしいくらいの甘酸っぱい青春恋愛映画だった。20代になってから観たそれは、「自分のやりたいことに向き合うこと、それはどういうことなのか」という恋愛とは別の軸で見れるようになった。

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