見出し画像

なぜ3Dプリンターを使ってバナナの解像度を下げたのか:コピーによる個性の喪失と獲得

どうも、3Dプリンター大好き大学院生の都です。3Dプリンターの可能性を拡大するために、日々いろいろなアイデアの試作をしています。

先日以下のような内容のツイートをしました。頑張って文章を削って140字ぴったりに収めていますが、語り足りないので語ります。

3Dプリンターを使ってバナナの解像度を下げた理由

今までも3Dプリンターを使ってプリンを作ったりしてきましたが、3Dプリンターの可能性を拡大する、というスタンスは変わりません。まだまだ可能性に満ちた3Dプリンターで、このツールにしかできない表現や作品を探求中(研究テーマもそんな感じ)。以下、今回の制作に至ったプロセスや、今後の話です。

アイデアの種

普段から思いついたことや気になったことはとりあえずiPhoneでメモしています。今回のアイデアの大本になったのは、1年くらい前に書いたと思われる以下のメモ。1番上に今回のアイデアが書いてあります。

スクリーンショット 2020-07-12 16.44.16

(なんとなく周辺にメモってた変なのものせます)

これを書いたときの記憶はあやふやですが、おそらく石という自然物を3Dスキャン→3Dプリントすると、角がとれて丸くなるんじゃないかと考えていたのだと思います。

川上にある石はゴツゴツと角ばっていて、川下の石は丸くなっています。石が上流から下流に流されていくうちに角がとれて丸くなるという現象を、川上の石を3Dスキャン→3Dプリントの工程を繰り返せば擬似的に再現できそうだという仮説です。

スクリーンショット 2020-07-12 16.43.41

当時ここまで考えていたかは覚えてませんが、3Dスキャナが高価で手に入らないし、アイデアがしょぼかったのでボツりました。しかし最近、iPhoneのアプリでも3Dスキャンできるということを聞いて購入しました。

着想

Twitterではしばしば、バズった画像やコラ画像がコピーされて使い回されて画質が劣化していく様子が見られます。作者が綺麗に作った画像はガビガビになり、コラ元となった漫画のキャラたちは言わないはずのセリフを喋らされたり魔改造をされたり……

(このツイートが一番わかりやすいと思います)

ガビガビのみっともない画像が、見る気が無くともタイムラインに流れてくる状況に若干辟易していました。コラ画像は、最初にやった人は面白いけれど何度も派生形を見るうちに「もういいよ……」と呆れてきます。画像がRTで回ってくるのでミュートすることも難しいです(Twitter見なければいいだろうなんて正論は求めてません)。

画像5

こういうのがリプ欄によく見られる

仮説

そんな状況と、過去にメモしていた石のアイデアが脳内で結びついて、3次元物体の複数回コピーによる劣化現象というアイデアに至りました。

3次元の物体を3Dスキャンして3Dプリント、それをまた3Dスキャンして3Dプリント……という風に繰り返していけば、形の解像度が下がっていき、モニョモニョした形になる(個性が失われる)のではないかという仮説を立てました。

スクリーンショット 2020-07-12 18.26.12

今回利用したスキャンアプリは安価なので大した性能も無く、スキャン解像度が低いのが逆に幸いでした(良い3Dスキャナだとたぶん何十回もコピーしないと劣化しない)。

実証

写真を見ればわかると思いますが、バナナを5回コピーした結果、だいぶ形の解像度が落ちました。特に果柄(枝と果実を結ぶ部分)はどんどんディティールが失われています。

画像6

画像7


Twitter上での反応

Twitterに投稿して一番多かったコメントが、シュタインズ・ゲートに登場するゲル状のバナナ「ゲルバナ」です。

画像3

指摘されるまで全く意識していませんでした。次に多かったのがルパン3世の映画に登場する「マモー」。この2つがコメントの過半数を占めていましたが、他にも面白い似た事例を教えてくれる人がいました。

例えば、石膏像の複製。デッサンなどに使われる石膏像は、原型となる彫刻があってそれから型をとって複製されますが、その過程で形状がぼやけたりします。それ故、原型はもちろん、原型から複製した第一世代などは非常に高価で貴重なものらしく、日本で販売されている石膏像のほとんどはコピーのコピーのコピーです。(参考

調べても見つからなかったのが、アダルトビデオを何度もダビングして劣化させ何が映ってるかわからなくしたアート、2Dの方のプリンターでコピーしたものをまたコピーしていくアートです。になるので詳細をご存知の方は教えて下さい。

個性の喪失と獲得

先程説明した、コピーによる劣化は、同時に価値が低下しているということでもあります。

バナナ解説1

でも、コピーしていった先の、オリジナルとはかけ離れていて、もはやなんなのかわからないもの。それにも価値はつくのではないでしょうか。(100回コピーしたバナナとかあったら欲しいと思うかもしれない)

5回コピーしたバナナは、もうバナナ自体の個性はかなり消えかかっていますが、別のベクトルで個性的になっています。5回コピーしたという背景を知っているのも理由でしょうが、個性を消失した点から、逆に個性を獲得する点があるのではないかという、新たな仮説が出てきました。

バナナ解説2

新しい個性は元のものとは異なるので便宜上線の色を変えています

ビデオや画像における劣化は、どんどん見辛くなっていくもの。だけど物体においては見えなくなることはなく、ものは確かにそこに存在している。今回のバナナのコピーは、排泄物に見える、オットセイに見えるといったコメントがありました。パレイドリア現象?(雲や壁のシミが顔に見えたりする現象)

バナナ解説

バナナとオットセイをコピーしていけば、どこかで形状が一致する点があるかもしれません。形状のモーフィングが3次元でリアルに見れると面白そう。

Project "Object Resolution"

という風に、仮説を確かめようと作ってみたらまた新しい仮説が出てきたという具合です。良いサイクルですね。いろいろな方向性に持っていけそうなので、もう少し時間をかけてこのテーマと向き合っていこうと思います。

一人だとできる範囲に限度があると感じたのでプロジェクトっぽくして仲間を募っています。すでに優秀な同期を一人誘うことができましたが、他にもアーティストやエンジニアがいたら楽しそうだなぁ。

純粋に良いもの面白いものを作りたいという思いのもと、ヘルシーなものづくりができればと考えています。興味あるクリエイターや機材提供するよって方はお声がけください。

(とりあえずティザーだけ作った)

最後に、西尾維新先生の物語シリーズに出てくる好きなセリフ、考え方の引用です。貝木泥舟かっけぇ〜。

“偽物のほうが圧倒的に価値がある。そこに本物になろうという意思があるだけ、偽物のほうが本物よりも本物だ。”

長々と読んでいただきありがとうございました。この取り組みをきっかけに3Dプリンターに興味を持ってくれる人が増えれば幸いです。

ラーメンのトッピング代にします。遠隔で僕のラーメンを豪華にしてください!!