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【読書メモ】裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル (ハヤカワ文庫JA) 宮澤 伊織(著)

引っ込み思案で厭世的な女子大生・紙越空魚(そらお)と、現実離れした美人の仁科鳥子(とりこ)が、「裏世界」と現実を行き来する物語。

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あらすじ

ひょんなことから裏世界に足を踏み入れた空魚は、ネットロアでおなじみ「くねくね」を目撃してしまい、危機に陥るが、そこで偶然出会った鳥子に命を救われる。鳥子は<裏側>で失踪した友人・冴月(さつき)を探すのが潜入の目的だと話す。その後、鳥子と冴月の知人で裏世界を研究する小桜(こざくら)との出会いを経て、研究・お金儲け(!)・冴月の捜索のために二人は裏世界への潜入を続け、怪異との遭遇を繰り返すようになる。

裏世界の住人

裏世界には「くねくね」や「八尺様」を始めとしたネット上に出回る都市伝説が実体化した異形の存在たちが蠢いている。彼らとの遭遇は現実世界からの訪問者たちにとって危険であり、命取りになりかねない。「くねくね」とのコンタクト以来、空魚の片目は裏世界の住人たちの真の姿(棒や柱といった単なるオブジェクトの組み合わせのことが多い)を映し出す青い眼に変わってしまう。また、鳥子の片手も、怪異に直接触れることが可能な半透明の手に変わってしまう。これら異形の存在たちを倒すには、空魚の青い眼で正体を見定め、鳥子の(そして空魚も)操る銃火器により物理攻撃を加えることが必要となる。

裏世界の描写

異世界ではあるが雰囲気としては VR による没入型のサバゲーのようなイメージが近い。現実世界との出入り口がエントリーポイントと呼ばれていたり、グリッチと呼ばれる即死もののトラップが存在するなど、全体的にどことなく一人称視点のアクションゲーム感がある。また、各章で裏世界の住人たちがボスキャラ的に登場している点や、怪異を倒す方法が銃火器による物理攻撃でミリタリー要素が強い点など、アクションゲームとの親和性が高そうな設定が多い点も理由として挙げられる。

SF 的な仕掛けとその効果

SF の仕掛け的には「怪異現象=未知の存在が認知機能に干渉して起こる現象」、という設定が秀逸。この設定は小桜さんの学術的な解説のおかげで、読者にも素直に受け入れられるようになっている。怪異に打ち勝つには、恐怖心を抑えてその正体を(空魚の青い眼で)直視する必要があるのが「幽霊の正体見たり枯尾花」的で面白い。加えて、空魚の厭世観を培ったのは直視したくない現実というのを併せて考えると、怪異を見極める能力を得たことによって今後空魚の性格面に何らかの影響があるのではないかということも予想できる。また、怪異の分析を空魚、物理攻撃を鳥子が担当するという物語序盤のおおまかな役割分担は女子大生二人の「バディもの」感を演出するのに役立っていて、二人の距離が縮む=百合っぽい展開になるのに一役買っている気がする。

オススメ回

個々の章について触れると、きさらぎ駅の回がとにかく怖くてオススメ。冷静に考えると裏世界ピクニックどころではなく、裏世界サイコホラーくらいの展開だ。「きさらぎ駅」と併せて洒落にならないほど怖い話でもおなじみの「あの話」にまつわる怪異も登場する点も、インターネット怪談好きおじさんとしては得点が高い。

空魚、鳥子、小桜の三人は無事、裏世界で失踪した冴月を見つけ出すことができるのか。裏世界への扉が閉じられることはあるのか。今後も目が話せない。2 巻以降も読む。

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