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ちがうペースで歩いているから、同じ道を歩きたい。

普通の会社からしたら不思議な話かもしれないけれど、今日は社員のほとんどのメンバーがわたしの家にあつまって、毎週行っている社内会議をした。

いや、社員の自宅で会議って!仕事とプライベートの境界、消滅してるやん!ってかんじですよね。でも、うちはそんな会社なんです。それがいいんだけど。

このご時世になり、元々リモートが中心だった仕事ではあるものの、みんながリアルで会って仕事をする機会が激減した。思えば、そうなってからのほうが、社内で「効率性」「ムダをなくそう」みたいな言葉が飛び交うようになった気がする。きっと、通勤時間とか仕事の合間のおしゃべりとか、そういうものが減ったことでかなりのストレスが解消されたからだろう。効率って大事だよね!という雰囲気がかなり強くなった。

わたしも大学の頃は、片道2時間以上かけて茨城の実家から都内の学校まで通っていたので、そういう「本当はかけたくないのに、かかってしまう時間」に対するイライラはすごくわかる。読書すればいいじゃん、とか、何か考える時間にすればいいじゃん、とか、工夫のしようはあるのかもしれないけど、それでもその時間を家やカフェや公園で過ごせたほうが圧倒的にいい時間じゃん。そう思って、すこし惨めな気分にさえなりながら4年間通いつづけていた。

今、わたしは大学を卒業して都内に住んでいる。近くにはコンビニが数軒あって当たり前だし、歩いてスーパーをはしごだってできる。家から10分も歩けば駅があるということにさえ感動する(実家のときは歩いて30分くらいだった)。友達も、会おう!というタイミングで会いに行ける。

ほんとうに便利になって、楽になった。半径1km以内の世界で生活できてしまう。となると、逆になくなるものがある。それが「わざわざ」というもの。

わざわざ、オフィスに行かなくてよくない?とか。
わざわざ、買いに行かなくてよくない?とか。
わざわざ、あつまる必要なくない?とか。

そういうふうに、どんどんどんどん、「簡単に消せそうなもの」が消されていく。「消せそうだから、消しちゃおうぜ。」「いいね!消しちゃおう!」そんなやりとりに歯止めがかからなくなってしまうのではないかという恐れが、ちょっとわたしの中にはある。「やめて!消さないで!!」と心のなかでは思ってても、じゃあいざ「消さない理由は?」と聞かれると、なんにも思いつかない。「だって、、、消したくないじゃん。」みたいな、子どもの言い訳のように抵抗するしかできない。


今日、うちの最寄り駅に集合して、家までみんなで歩いた。数人のグループが集団になって歩くときって、横1列で歩道に並ぶわけにもいかないから、大体2つくらいのグループで前後に分かれた状態で歩いていく。わたしがしばらく先頭を歩いて、パッとうしろを振り返ると、とおーくの方に3人の女の子たちが歩いていた。横並びになって、おだやかでゆるやかな足取りで、お互いの顔を見合わせながらニコニコと歩いていた。

わたしと、一緒に先頭をあるいていた子は、そこで立ち止まってその子たちの到着を待った。「あんなスピード、俺にとっては止まってるようなもんだよ(笑)」と、いつも早足で歩くクセのあるその子は言った。

すごいな。止まっていると感じるくらい、自分とちがうペースで歩む子たちと一緒にいるって、どんな気分なんだろう。「俺があのペースに合わせてたら、メンタルが乱されるね」とまで言っていた。彼はいつも仕事でも、前に進むことばかり考えている性格で、それが歩調にも表れているのかもしれないと思った。わたしは、どちらかというと歩くのが遅い方で、ゆっくりまわりの景色を見ながら一歩一歩すすんでいきたいタイプ。この子とわたし、全然ちがうんだなぁ。こんなに小さい会社なのに、こんなにも歩く速度のちがう人同士が一緒にいるって、なんか不思議。

それから会議がおわったあとは、家のちかくにある喫茶店に行って、みんなでお茶を飲みながら各々の話を聞き合った。みんなタイプがまったくちがうのに、おなじ時間・おなじ空間の中に溶け合っていく感覚。それがすごくぐちゃぐちゃで、おもしろい。1つの漫画が話題にのぼれば、「読んでいる組/読んでいない組」に分かれるし、恋愛の話になれば「恋愛したい組/恋愛しなくていい組」に分かれて。そんなふうにシャッフルしながら、いろんなところで人と人同士が化学反応を起こしていた。

帰りに駅で何人かとバイバイしたあと、残った3人で立ち話をした。冷たい夜の空気が改札までつたわってくる中、気づいたら30分くらい。何本もの電車を見送って、見送った分だけタイムリミットが加算されていって。まるでカラオケの時間延長システムみたいに、まだ足りない!まだ足りない!を積み重ねていく感じ。そこはもう、「効率」なんてどうでもいい世界だった。効率よりもたしかに大事で、かけがえのない時間。「いま目の前にいる」あなたにだけ届けたい言葉を、たしかめるように手で渡し合っていく。そういう言葉は、顔と顔を合わせているからこそ、出てくるものだった。この時間は、絶対にリモートじゃできないよね、と確信した。


ちがうペースの人たちが、おなじ時間、おなじ空間にあつまるとき。それまでは自分1人のペースで歩いていても、ほかの人はちがうペースで歩いていることに気づく。「待ってよー」と駆け寄っていくと、こんな景色を見ていたのか!と驚かされたり。こっちに来るのを待っていると、大切なことをもう一度おしえてもらえたり。そんなふうに、わたしたちはお互いのことをひっぱり合いながら、この小さな組織の一歩一歩をみんなでつくっているんだなぁ。

「ちょっと寄り道して行かない?」という提案に、理由なんていらないよなぁ、と思う。ちがうペースで歩く者同士だからこそ、わたしたちには「わざわざ歩く道」が必要なのだ。一緒に歩かないと見つからないものが、そこにはきっとあるんだよ。

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