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小説のイメージを15秒の映像にしました。『こんなとこにいるから悪いんだよな』

元になった小説『こんなとこにいるから悪いんだよな』を全文掲載します。

Music: BL K-pop OnlyOneOf (온리원오브) 'skinz'

https://youtube.com/shorts/MlthrghqkFE

 
まだオープンしていない日曜のバーには、まだ始まらない映画の字幕だけ観ているような、じれったさがある。
 バー「パラダイス」は、表参道から横道に一歩入ったところにある。店の前に、パラソルの下に、椅子が幾つも置かれている。黒く塗られた鉄の椅子は重くて、椅子を引くと、コンクリートの上をじゃらじゃら擦る音がする。
 壮太は鉄の椅子に座り、タブレットを使って、欧州マーケットの動向を窺っている。壮太は株のブローカーで、客から集めた金をストックマーケットに投資し、手数料を得ている。
 
「ねえ、電気代払ってくれない?」
数字だけが並んだ画面を長い間見詰めていた壮太には、その声が別世界に住む珍しい生物から発せられたように聞こえた。妖精とか妖怪とか。顔を上げると、若い男。知らない男。いきなりの要求が、ほんとに自分に向かって発せられたものか、辺りを見回す。
「誰の電気代?」
「僕の」
 電気代の男は、勝手に壮太の横に座る。テーブルは小さく、身体はかなり接近する。男は丸顔で目が大きく、甘ったるい女顔をしている。壮太の好みは目尻のきりっと上がったスポーツマンタイプ。
 男の袖のないTシャツから意外と筋肉の付いた腕が見えた。悪くない。肩も見たけどやっぱり悪くない。電気代の男は、壮太が身体を見るのを嫌がってはいない。
 男の髪は奇妙で、片側を刈り上げて、もう片側を肩につくくらいまで長く伸ばしている。その分け目は頭の天辺よりやや刈り上げ側で、完璧に計算された位置だった。芸術作品だ。どんなヘアサロンに行くとこういう髪になるのだろう。
「その髪染めてるの?」
「ちょっとね」
日に透かすと蒼褪めた色が浮き上がる。
「どうするとこんな髪になるの?」
「友達のヘア・ドレッサーの実験台になってるから」
確かに珍しい生物には違いない。初めて声を聞いた時に思ったように。妖精なのか妖怪なのか。
 電気代の男は壮太から見て、刈り上げ側に座っている。刈り上げ側より長い髪側の方がいい。時々ちらちら顔が見えた方が。
「そっち側じゃなくて、あっち側向けて座ってくれない」
男は理由も聞かず、壮太の言う通り席を移る。やっぱりこの方がいい。時々しか見えない顔が妙にそそる。男は邪魔そうな髪を上げて耳に掛ける。壮太はその仕草にどきっとする。どきっとなんて言い古された言葉だけど。
 その時壮太は、彼の青いカラコンに気付いた。化粧もしている。きらきらした海水色のアイシャドー。涙ぼくろの位置に水色の宝石が貼ってある。珊瑚色の唇も明らかに塗ったものだ。全体的に青いんだな、この男は。海の。潮の香りのする。壮太はそういう発見をした。意外と太いあの腕に、サーフィンボードを持たせたらどうなるだろう、と壮太は想像を逞しくした。
 
 バー「パラダイス」。ほんとはゲイバーとして去年オープンしたんだけど、あんまりお洒落にし過ぎて、女が混じって、全然ゲイバーじゃなくなっている。しかし、まだ男が男に出会う場としての機能は生きている。女達は自分に注がれる男の目がないことを訝しがっている。 
 お洒落にし過ぎたバー。外のパラソルは白と青の大胆なストライプ。床や壁には荒削りで塗装のしてない木材が使われている。どんなに酒やタバコや女の香水が混じっても、店の中にはやっぱり森の香りが漂う。
 バーカウンターはずっしり重い金属で、壁に同じような素材の、ヘヴィーメタルの意味不明なオブジェが掛かっている。オブジェはオーナーの友人である有名アーティストが創った飛行機を模した力作で、幅が五メートル以上ある。酔った人々に、しばしばそれが轟音を上げて飛び立つのが目撃されている。
 
「電気代払ったら俺にどんないいことがある?」
株屋らしい発言だった。壮太は時々自分が嫌になる。全て金が基準になっている。見返りのない投資はしない。プロフェッショナルだから。
「僕、なんでもするし。するの上手いし」
「するってなにするの?」
 
 気取ったボルサリーノを被った男が来て、バーの扉をがたがたやっている。
「なに、この店まだ開いてないの?」
「今日は日曜だろ?」
そう壮太が答えると、ボルサリーノの男が電気代の男の名を呼ぶ。
「レオン、なにしてんのこんなとこで?」
「小銭持ってない? 五百円玉とか」
「日曜だと早く閉まるから、早く開くのかと思ってた」
ボルサリーノの男はあっちこっちのポケットに手を突っ込んで、じゃらじゃらとテーブルに撒く。五百円玉はないらしいけど、その他の物が、いつからポケットに入っていたのか分からないような、チケットの半券やら、レシートやらのゴミと一緒にごちゃ混ぜになっている。人って理由も聞かず、見返りも期待せずに金をやるもんなんだな、と壮太は感心した。
「ここ何時に開くの?」
「知らない」
壮太とレオンがハモって答える。
「知らないのになんでこんなとこにいるの?」
「いいだろう? 天気いいし」
壮太が答える。ボルサリーノの男はボルサリーノを気取って被り直し、来た道を戻って行く。
 
 レオンはゴミを避けてテーブルの上に小銭を綺麗に揃えて数えると、立ち上がって。黒いスキニージーンズの左右のポケットに分けて入れた。百円玉が右で、その他が左だった。
 壮太はレオンの身体を盗み見た。若いな。細いし。足なんて小枝のようだ。きっと自分なら折ることができそうだ、と壮太は思った。壮太は三十代終わりだ。若くゴージャスな身体を抱いている自分を想像した。もしかして腕がこれだけ逞しいんだったら、足も外見より意外と筋肉が付いているのかも知れない。
「もう一回立ってみてくれない?」
レオンはまた理由も聞かず、壮太の言う通りにする。やっぱり足は細いな。もうちょっと太いのがいいな。
「ちょっと後ろ向いてくれない?」
割とよく盛り上がったお尻が、壮太を喜ばせる。
 
「僕ね、江戸時代のお姫様の生まれ変わりなの」
「そういう小説が流行ってるんだろ? 君達、若者の間で。確か、転生もの、だよな。突然、次元を超えてみたり、突然、生まれ変わってみたり」
「僕はね、江戸時代の偉い将軍のところへ、十一才でお嫁に行った。その時はまだお人形を抱いていた」
「どんな人形?」
あのね、フランス人形。寝かすと目を閉じるやつ。
それ、変だぞ。江戸時代じゃそんな人形まだないだろ?
それがそうじゃないんだよね。僕的には。
僕的には、時代考証はどうでもいいんだ。
何回も生まれ変わってたから。その時はね、伊達政宗の奥さんの愛姫(めごひめ)っていう人だった。結婚の時、政宗はたった十三才だった。
 
 バーの前にはよく手入れされた白い花々が植えてある。種類は違うが、どれも白い花だ。微風に揺れて、ハッピーであるという意思表示をしている。
 
「それ隠してるのなに?」 
「これ? 手紙」
今時どんな奴が手紙くれるの?
だから、電気代。調べたんだけど、水道は急には止めてこないらしいんだけど、電気代はヤバいらしいんだよね。
督促状ね。今、君がこの手紙を読んでいるということは、電気はそんなに直ぐは止まらないよ。
そう?
普通はそうだぞ。督促状というのは、いついつまでに払わないと、止めますよってことだから。
それっていつ? 払ってくれる? 僕、なんでもするし。
いくら君がなんでもするって言っても。俺はやらないよ。
え、なんで?
大人には大人の節操というものがあって、君みたいなのと関わって後戻りできなくなると困るし。
君みたいなの?
どうせ直ぐ飛んでっちゃうんだろ? 電気代払ったら。
じゃあ、何にもしないから、電気代だけ払って。
そういう取引ってないだろ? 仕事はしないのか?
僕ね、駄目なの。なにかしてると、すぐなにしてるのか忘れちゃって。
それってなんかの病気?
双極性障害だって。今、ハイだから特に集中力がないの。
ドクターとか保健所とかに言ったら、電気代くらいなんとかならないの?
なんとかなるけど、世の中そうばっかりはならないこともあるから。
 
 二人の足元を雀の集団が通り掛かる。ここには食べ物はありませんよ、って言ってるのに、足にじゃれついて離れない。
 天使みたいな巻毛の見知った背の低い若者が駆けて来てドアを引っ張る。
「あれ、なんだ、開いてないの? あれ、壮太ちゃん、なにしてんのこんなとこで」
「いいだろ、天気いいし」
「困ったな。今日は面接で来たのに、バーテンの」
「何時?」
「五時」
彼は壮太とレオンの向かいに座る。
「まだ四時だぞ」
「ここ、何時に開くの?」
「知らない」
壮太が答える。
「知らないのになんでこんなとこにいるの?」
するとレオンが会話に参加する。
「裏に回ってみたら? 誰かいるかも」
天使の巻毛の男は嬉しそうに立ち上ろうとする。
「小銭持ってない? 五百円玉とか」
男はあちこちのポケットに手を入れる。壮太はまた人が簡単に小銭を上げる場面を見て驚く。
「随分持ってるんだな!」
「僕、今もバーテンだから。チップをポケットに入れる奴がいるから。お尻のポケットに入れて、ついでにお尻撫でたりとか」
五百円玉が三個混じっている。この調子だと電気代くらい直ぐに払えそうな勢いだな。
 
 壮太の顧客からメッセージが入った。イギリス人の大金持ちで、日本の新規事業に投資するのが趣味だ。いい投資先はないか、聞いている。大雑把な希望を聞いて、リサーチしてから連絡する、と返した。レオンはその間、言うことをよく聞く番犬みたいに大人しく待っていた。
 
「何回も生まれ変わってたって、伊達政宗の他にはなんだったの」
「シンデレラの生まれ変わりだった」
「あれってお伽噺だろ?」
「そうなんだけどそうじゃない。あとは竜宮城の乙姫様」
それだってお伽噺じゃないか。あれだな、君はいつもお姫様なんだな。
そう、プリンセス。男になったのは初めてだから。
どんな感想?
電気代払ったりとか、大変。……あ、小銭持ってませんか? 五百円玉とか。
 
 レオンは道を通り掛かった、メイド喫茶風のコスプレ中のボンネットの女に声を掛ける。女は斜め掛けにした気持ち悪いピンクのフリルの寄った小さなバッグを開ける。中から五百円玉が二つ出て来る。
 
「君、なんで今の人が小銭くれるって分かったの?」
「僕もああいう恰好してたから」
「それはどんなお姫様?」
「ロシア皇帝の娘」
「どの?」
「最後の」
「最後に革命で殺された人だろ? あんなの結構最近だぞ。第一次世界大戦中だ。まだ親戚とかいっぱいいる筈だぞ。その人達に電気代払ってもらえばいいじゃない」
 
 見てくれのいい男がやって来る。一発でオーダーメードと分かるグレイのスーツを着こなしている。身体もいい。鍛えた身体だ。
 デザイナーに聞いたことがあるけど、いいスーツは身体から付かず離れずの距離にある。身体に添わせるのも簡単だし、身体から離すのも簡単だけど、付かず離れずが一番難しい。壮太は自分のスーツも男を落とすのに色々役立ってきたけど、あのスーツにはかなわないな、と悔しがる。
 レオンが急に消えている。いつの間にかテーブルの下に隠れている。壮太の足にしがみ付く。
「レオン!」
レオンは直ぐ男に見付かる。
「お前、ガス代払ってくれたら付き合うって約束した癖に」
「俺も、もう少しで騙されるところだった」
「貴方は?」
「電気代を払えって言われた」
スーツの男はドアを開けようとする。
「なんだ、まだ開いてないんだ。ここ、何時に開くんですか?」
「知らない」
「知らないのになんでこんなとこにいるの?」
「いいでしょう? お天気良いし」
そうは言ったけど、日が大分落ちて来た。街灯が点くちょっと前。
 壮太はティーンエイジャーの頃から、バイセクシャルだった文豪、三島由紀夫に憧れ、ボディビルダーだった彼のように身体を鍛えてきた。身体の線の出ない、付かず離れずのスーツを好んで着るから、新しいベッドの相手は大概、壮太の裸に感嘆の声を上げる。
 
 男が去って、レオンはテーブルの下から甦る。
「なに、今の男?」
壮太はスーツで負けたので気になるのだった。
「あの人はね、あの飛行機創った人」
レオンは店の中の、あの飛行機のオブジェのある辺りを指差す。
「ほんとに? 凄いじゃない」
 有名なアーティストだったら、スーツで負けても仕方がない、と壮太は諦める。バーのオーナーに聞いたな。あのアーティストは金属専門で、メタルを切ったり叩いたり曲げたりも全部自分でやるんだそうだ。だからあの身体。
「なんで付き合わないの?」
「だってあの人変態で、いろいろ注文がうるさくて。僕ね、駄目なの。なにかしてると、すぐなにしてるのか忘れちゃって」
 壮太が海外へ行く時、飛行機は必ず夜の便だ。選んだ訳ではない。夜の滑走路ほど哀愁を誘うものはない。飛行機が通る道を照らす物悲しいライト。漆黒の夜に飛び上る飛行機に、そのまま闇の国へ連れて行かれそうな気がする。
 オーナーはその飛行機みたいな意味不明な美術作品が、男心をくすぐると予測したけれども、そうならなくて、ファッション好きな女の心をくすぐっている。
 
 面接に来たという天使の巻毛の男が戻ってきた。
「お陰様で、面接は上手くいきました」
そう言って、頭を下げる。
「それでこの店、何時に開くの?」
壮太が聞く。
「あ、それは知らない」
 
 何やら、料理の匂いがしてきた。いくらなんでも、もうじき開くだろう。壮太は仕事を再開した。さっきのイギリス人になにかを勧めないと。この間、手堅いところを教えたら、誰もが買うような株は面白くない、という答えが返ってきた。日本がいくら不景気だからと言っても、そのイギリス人には日本以外に投資する考えはないようだった。
 なぜだか聞いてみた。そうすると、日本の新しい企業に投資してると言ったら、カッコ良くて女にモテるからだ、という答えが返ってきた。なるべくお洒落な企業を紹介したら、大金を投資して、意外にも利益を上げている。
「レオンはなんで俺に電気代払ってって頼んだの、そもそも?」
貴方はね、他の人と違う。
電気代払ってくれそうだった?
あのね、今の人達って、自己啓発本とかビジネス本に書いてある通りの話し方するじゃない。
君が電気代払えって言ったの、俺が喋る前だぞ。
僕ね、前世で色々苦労してるから、それくらい分かるの。
……質問があるんだけど、君からみて、今の日本の新しい企業でこれから伸びそうなのはどこ?
 
 レオンは、新し過ぎて壮太も知らない会社を三つばかりを教えてくれた。横文字の名前が並ぶ。しかもその全てが最近上場している。
 壮太は、レオンの言う会社をそのままイギリス人に伝えた。手抜き仕事ではない。レオンには謎の力を感じる。喋る前から壮太のことを見抜いてたみたいに。前世で苦労してるらしいし。イギリス人の大金持ちは、現地に住む人間しか知らない情報だ、と喜んで、壮太の手数料を上げてくれた。
 レオンはイギリス人との対話中、また、言うことをよく聞く番犬みたいに大人しく待っていた。
「よく知ってたな」
「その内の二つはね、友達のいる会社。もう一つのは友達に勧められた」
株買ったの?
ちょっぴりね。
どうなったの?
儲かったよ。直ぐ売ったけど。
なんで?
だって、電気代払わないと。でもね、その後暫くは、電気代もガス代も水道代も携帯代も遅れずに払ったよ。
じゃあ、俺も買おう。
僕、もっと知ってるよ。友達にも聞いてあげる。
凄いな。
僕、未来にも生まれてたから。
いつ、どこで?
竜宮城の乙姫様の時。
あれって未来なんだ。 
 
 芥川龍之介みたいな粋な着流しに、懐手の男が下駄を鳴らしながらやって来た。
「あれ、まだ開いてないんだ」
ドアをがたがた開けようとする。
「小銭持ってませんか? 五百円玉とか」
男は派手な赤い柄の巾着を逆さまにして、ばらばら小銭をテーブルに出す。男は壮太にこの店はいつ開くのかと質問する。
「それは知らない」
「え、知らないのになんでこんなとこにいるんですか?」
壮太は、天気がいいからいいだろう? と言いかけたところで、もう大分辺りが薄暗いのに気が付いた。
 街灯が一斉に灯る。見えなくなる遠い向こうまで一斉に。観光客が歓声を上げる。なんだか花火見物みたいだ。道は斜めに交差していて、壮太達のいる場所から表参道が見渡せる。壮太は着流しの男と一緒に街灯を眺める。壮太が言う。
「綺麗でしたね」
「今日はいいものを見ました。開いてないんなら、ちょいとそこらを散歩してきます」
そう言い残して、また下駄の音をさせて去って行く。
 レオンはまだ小銭を数えていた。立ち上がってジーンズの左右のポケットに分けて入れた。百円玉が右で、十円玉が左だった。
 レインボーカラーの渦巻きT シャツに、ヴィヴィッドなグリーンのジーンズに、ざっくり編んだニットのレゲエ帽の男がやって来て、ドアを開けようとする。壮太はレオンの首根っこを掴んで立ち上がらせる。
「まだ五円玉と一円玉が……」
「俺達、こんなとこにいるから悪いんだよな」
 
 バーの中に灯が点く。壮太はレゲエの男に話し掛けられる前に、レオンを引き摺って通りへ出て、表参道に向かう。普通の買い物客と観光客が入り混じるストリート。彼等の下げている高級ブティックのロゴの入ったショッピングバッグに、物欲の匂いが漂う。あの強力な物欲のエネルギーはどこから湧いて来るのだろう?
「君のお陰で手数料が上ったし。一緒に飯食いに行こう」
「あと千五百八十円だったのに」
「君の商売の邪魔をして済まないが、未来から来た乙姫様に株の予想をしてもらいたい」
「千五百八十円は?」
壮太は笑いながら、うんうんと、二回大きく頷いた。お洒落なオレンジ色の街灯を押しのけて、真っ白に暴力的に輝くコンビニがある。レオンはコンビニに入って行く。そしてポケットに入っていた小銭を全部レジに、ばらばらばら撒く。それから手紙に入った振込用紙を出す。
「コンビニで電気代払うんだ」
「そう、千五百八十円は?」
レオンは手の平を壮太に差し出す。
「千五百八十円分は、俺がクレジットカードで払いますから」
壮太はレジの人に言って、一緒に小銭を数え始める。レジの後ろに並んでいたOL風の女性も小銭を並べるのを手伝ってくれる。支払うのに、思ったより時間は掛からなかった。
 
 二人は表参道に戻る。レオンは貰ったばかりのレシートにビッグなキスをする。
「やったー! これで電気は大丈夫だなっ」
レオンは大きな買い物袋を下げた観光客の間を擦り抜けて、スキップする。乙姫様ね……。まず浜で亀を助けるんだよな。それからどうなるんだっけ? もうあんなに遠くまで行ってしまった。スキップしながら時々ぐるっと回って壮太に大きく手を振る。長い方の髪がはためいている。食べる物、なにが好きなんだろう? 思い出した。タイやヒラメの舞い踊り。……電気代を払ったことがあんなに嬉しいなんて。
 壮太は、すっかり夜景に変身した表参道を歩きながら、お伽噺の続きを探す。発光する携帯に映し出された浦島太郎。そうか、乙姫様に貰った玉手箱さえ開けなければいいんだな。壮太はその禁止事項を胸に刻んだ。
 乙姫様は立ち止まって壮太を待つ。助けた亀に連れられて、二人は、肩を抱き合って地下鉄へ、海底へ潜って行く。
 
 
(了)
10・17・2022



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