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病院を「設計する」「施工する」とは


written by 病院建築note(医療機器出身のゼネコン社員)

今回は病院が建てられるまでの基本的な流れについて書きます。

この知識は宅地建物取引士や賃貸不動産経営管理士の試験では学べないので、私もゼネコンに入るまでは知りませんでした。

病院建築営業は医療機器と違って商品が手元にありません。オンリーワンの商品を作り上げる大切な過程です。

病院建築は大きく「設計」と「施工」に分けられます。
規模は違いますが、皆さんが注文住宅を建てる際も流れはほぼ同じだと思います。

病院建築には設計のみを行う「設計事務所」と設計と施工の両方を行うゼネコンが存在します。

発注者は設計だけを設計事務所に依頼することもありますし、設計施工の両方、または施工のみをゼネコンに発注する場合もあります。

例えば新国立競技場は設計=隈研吾事務所、梓設計事務所、大成建設共同事業体。施工=大成建設です。

総工費は約1,569億円で、国の予算の1,300億円をオーバーしたものの何とかオリンピックに間に合いました。

元々は設計=ザハ・ハディトで施工業者を選定していましたが、総工費に3,000億円掛かることが分かり、土壇場で設計が変更になりました。国の予算は1,300億円なので大幅オーバーでした。

設計施工が分かれると、施工者との契約が後になり、工事費が出るまでに時間が掛かるため注意が必要です。

新国立競技場 設計隈研吾事務所、梓設計、大成建設
新国立競技場 ザハ・ハディト案

ザハハディト 曲線の嬢王

※発注方式については別の記事で詳しく書きますが、設計・施工の両方ができるゼネコンは工事や解体の仕方を考えながら設計することができます。

そのため設計事務所が単独で設計した場合より、後になって想定外の金額になるが判明することは少ないと言われています。

また日々全国各地の工事見積を大量にしているので、設計事務所よりも工事価格の相場に精通しています。

このように設計と施工は別々になることもゼネコン一括してやることもあります。次は設計と施工とは何かについて記載していきます。

■病院を「設計する」とは?


設計は基本設計と実施設計に分かれます。

【基本設計】


基本設計とは詳細設計を行う前に行う、概略の設計図のことをいいます。
設計のコンセプトや大枠を決めます。 

例えると料理のレシピみたいなものです。
同じレシピでも作る人よって完成度が変わります。

実現したい病院の機能を発注者からヒアリングして、基本設計図を作ります。発注者と建物のイメージを共有化することが目的です。

概略図ですが発注者のニーズを整合して一緒に形にしたものですので、大枠といえど後から変更するのはとても大変です。

【実施設計】


実施設計では出来上がった基本設計を基にして、現場の施工業者がスムーズに工事に着工できるように詳細部分まで行う設計になります。

「実施設計」で詳細部分まで設計を行うと、ようやく細かな費用が算出され、最終的な見積もりと工事内容が確定します。

この工事内容と最終見積をもって、発注者とゼネコンは工事請負契約を締結します。

また実施設計時に作成した設計図を利用してはじめて、自治体などに「建築確認申請」が行えます。

建築物の工事はこの「建築確認申請」の手続きを行い、「建築確認通知書」を受け取らないと、工事に着手できません。

そのため実施設計の目的は、最終的な見積もりの確定と工事請負契約の締結、そして「建築確認申請」を行うことと言えます。

■病院を「施工する」とは?

施工とは実施設計図を元に、工事を実行し建物を作り上げることを言います。

設計というレシピを元に料理を作っていく過程です。

施工には建物の杭を打ったり、躯体を作ったり、電気・水道設備を作ったり複数の業者が関わります。ゼネコンは1次請け(元請)となり、様々な業者を手配して建物を施工します。

発注者は安く建てるために、それぞれの業者に直接発注することもできますが、非現実的と言われています。

なぜかというと、発注者の社内に建築と設備に精通し判断できる人材が必要ですし、責任の所在が不明確になる(建物全体の完成度に対しては誰も責任を持たない)からです。

そのためゼネコンと請負契約を結ぶのが一般的です。

■それぞの強みを理解して、適切に発注する。

このように病院を作るには色々な選択肢があります。

ゼネコンは設計と施工の両方の機能を有しているため、「工事や考えて設計すること」ができます。

ゼネコンでも実施設計を元に施工のみをおこなう場合は、既に詳細が確定しているため、工事を考えた施工やゼネコン独自の特許工法を組み込むことはできません。

設計事務所も病院の発注者と相当の打合せをして実施設計を作っているので、それを崩すことはできず、提案の余地は残されていません。

もちろん設計事務所が実施設計まで詳しく決めるメリットもあります。競争入札で施工するゼネコンを選べば、各社提案の余地がないので価格勝負になり、結果的に安く工事できるゼネコンに決めることができます。

ゼネコンに設計施工を任せるのはメリットだけでなく、デメリットも表裏一体にありますので、発注者のニーズに合わせた選択が必要です。

そのため病院建築においてもデザインビルトやECIといった多様な発注方式が出てきています。

その発注方式についてもまた詳しく記事にしたいと思います。

この設計施工や発注方式についての解釈は設計事務所やゼネコンなど立場によって変わるので正解はありません。だから難しいです。

予算や建築資材動向も踏まえて設計と施工をどうするか考える必要があります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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